全国高校サッカー選手権は9日、岡山学芸館の初優勝で幕を閉じた。岡山学芸館、準優勝の東山(京都)はともに、2度のPK戦を制して決勝に進出してきた。
決勝前、全国大会の経験が豊富なある指導者と話す機会があった。話はPKに及んだ。その指導者は「岡山学芸館の選手のPKはすごかった。右上、左上とGKが取れない場所に思い切り蹴り込んでいた。あの姿を見て、自分の今後の指導について考えさせられた」と話した。
記者はJリーグを担当していて、プロの選手から「延長戦まで戦って、PKで上を狙うと、ふかしそう(=枠の上に越えそう)で怖い。上に蹴ることができなかった」と聞いたことがあった。プロですら、疲労がたまった状態で上を狙うのは難しいことなんだと感じたことを覚えている。
その指導者も、PK戦で枠外のリスクの大きい上を狙わせることは、これまでしてこなかったそうだ。
だが、昨年のFIFAワールドカップ(W杯)カタール大会と今回の高校サッカー選手権を見て、考えを改めたという。「トーナメントを勝ち上がるにはPKにも勝たないといけない。ワールドカップでも、PKにもつれこんだ試合がたくさんあった。将来の日本サッカーを考えたら、高校年代の段階からGKが取れない右上、左上を狙って蹴らせないといけない。リスクがあるなんていっていられない。高校年代は失敗してもいい。これからは、右上、左上に蹴る練習をして狙わせていく」と話した。
練習試合で訪れた千葉の強豪・流通経大柏には、PK練習の秘密兵器があったそうだ。左上、右上、左下、右下の4カ所に穴があいたゴールマウスにかけるカバーだ。その指導者は「うちも購入しようと思っています」と話していた。
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岡山学芸館には、昨年4月から高原良明監督(43)の恩師でもある平清孝氏(68)が昨年4月から岡山学芸館のゼネラルアドバイザー(GA)に就任した。東海大五(現東海大福岡)を14度全国に導き、国立での戦いを経験している名将だ。平GAは「トーナメントには必ずPKがある。右上、左上はGKは取れない。GKの腰の部分は最も反応しやすいから絶対に蹴るな、目をつぶってでもそこ(四隅)に入るぐらい練習をしろ」と高原監督と選手にPKの重要性を説いてきた。高原監督は平GAのアドバイス通り、厳しいコースを狙う練習を求めてきた。
岡山学芸館は、3回戦の国学院久我山(東京A)、準決勝の神村学園(鹿島)戦でPKを制している。キッカーは2戦とも同じ選手で同じ順番。1回も外すことがなく、決定率は100%だった。
平GAは「2回目、3回目のPKだろうが、同じコースを蹴っても、厳しいところは取れないよと言ってきました。度胸ありますよ」と目を細めた。目をつぶってでも厳しいコースを決めきるまで練習を積んできたからこそ、疲労がたまる連戦の中、大舞台でも決めきった。
PKは決して、運ではないのだ。
日本代表は、W杯カタール大会でクロアチアにPKで敗れ、8強の「新しい景色」を見ることができなかった。高校だろうが、W杯だろうが、トーナメントにはPKはつきものだ。高校年代から、各校がPKを制するための練習を積んでいけば、将来の日本代表のW杯につながるはず。そう強く感じた今大会だった。
【岩田千代巳】