サッカーの女子ワールドカップ(W杯)は6月7日にフランスで開幕する。女子の日本代表「なでしこジャパン」に、マイナビ仙台レディースからはDF市瀬菜々(21)が唯一、選出された。市瀬は宮城・常盤木学園2年時の14年にU-17W杯で優勝、16年のU-20W杯では銅メダルを獲得するなど、その年代のトップ選手として活躍してきた。当時から高倉麻子監督(50)の元で経験を積み、着実に力をつけてこの大舞台へたどり着いた。チームはすでにフランスに入って調整を行い、6月10日(日本時間11日)アルゼンチンとの予選リーグ初戦を迎える。

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フランス出発前のリーグ最終戦となった新潟戦(19日)終了後、仙台サポーターから市瀬コールが沸き起こった。戸惑い気味の表情で向かうと、寄せ書き入りの日の丸を贈られた。「目指せ世界イチ!」「世界のFWをシャットアウトしてきてください!」「イチ、フランスで輝け!」。思い思いのメッセージが世界に挑む市瀬を奮い立たせる。「応援してくれる人がいっぱいいるんだな、と。すごいうれしかったです」と決意を新たにした。

新潟戦は、終了間際にボランチでコンビを組むMF隅田凜(23)が同点ゴールを決め連敗を5で止めた。ゴール後、隅田が市瀬に飛びつき、喜びを爆発させた。「抱きついてきてくれて本当にうれしかった」。ともに、日の丸を背負ってきた者同志。W杯と東京五輪を目指して勝負をかけ、あえて日テレから移籍してきた隅田は、キャンプ中のケガが響きW杯に間に合わなかった。チームで2人しかいないプロ契約選手。練習や自主トレはいつも一緒だった。それだけに落選のショックは人一倍理解していた。「自分が代表に決まった時も凜さんは喜んでくれた。最後に決めてくれたのが素直にうれしくて。凜さんの分も…」。抱きしめられた数秒間のうちに、隅田の思い、激励を身震いしながら受け止めた。

昨年までの3年間は、仙台市内のホームセンター「ダイシン」で午後2時までレジ打ちや接客業をこなしてから練習に参加。今季からプロ契約となり、午前中を休養やトレーニングにあてられるようになった。スタミナ不足克服のため有酸素運動にも積極的に取りくむなど、常に世界を意識した生活を送ってきた。160センチ、55キロと守備的選手としては恵まれた体ではないが、危機察知能力、ビルドアップに優れ、センターバックとボランチをこなせる万能性が最終メンバー入りにつながった。「まだスタートラインに立てただけ。スタメン争いをしながら、世界一に向かって1つ1つ目標をかなえていきたい」とあくまでもレギュラー奪取を目標に定める。

男子に混じりプレーしていた徳島・川内中2年の時、テレビでドイツW杯優勝(11年)を見た。「それまでは漠然と代表に入りたいと思っていたけど、そこまで明確じゃなかった」。スイッチを入れてからはU-15から常に年代別代表を経験し、常に世界を経験してきた。21歳で迎える最高峰の舞台を前に「日本では実感できないスピードとパワーがあるんで、そこに負けないプレーを身につけたい。粘り強く戦って攻撃につながるビルドアップも意識したい。仙台の代表として、成長して帰ってきます」。世界一、そして進化を求め、市瀬がフランスのピッチに立つ。【野上伸悟】