過去に例のない珍事が起きた。日本サッカー協会は11日、都内のJFAハウスで臨時の天皇杯実施委員会を開き、天皇杯2回戦(6日、パロ瑞穂)の名古屋グランパス(J1)-奈良クラブ(奈良県代表)戦をPK戦からやり直すことを決定した。再開日程、場所は未定。試合は奈良クラブがPK戦の末5-4で勝利し、3回戦進出を決めていた。しかし翌7日にファンからの問い合わせで、PK戦において競技規則の適用ミスが判明し、この日の決定に至った。

 一昨年なら、奈良クラブの勝利で終わる試合だった。90分+延長30分でも1-1で決着がつかず、PK戦に突入した。先に蹴ったのは奈良クラブ。3番目のキッカーが失敗し、2-4で迎えた4番目のキッカー金久保は助走から左足で2度ケンケンし、右足でゴールを決めた。清水主審は笛を吹き、フェイントと判断し、やり直しを命じた。金久保は2度目のキックも決め、名古屋はその後、2人連続で失敗。6人目のキッカーで勝負が付き、奈良クラブが3回戦に進出した。

 しかし翌日、1本の電話が、日本協会の審判部にかかってきた。「3級審判員の資格を持っている」と名乗ったファンから「あの場面はキック失敗で終わるのでは?」との指摘があった。審判部で検討し、臨時の天皇杯実施委員会が招集された。FIFAのルール変更で、昨シーズンから、審判がフェイントと判断した場合、そのPKは失敗と見なすことになっていた。新ルールなら、奈良クラブ4人目の金久保は失敗となり、その時点で名古屋の突破が決まるはずだった。

 天皇杯実施委員会は国際サッカー評議会(IFAB)に複数回問い合わせをした上で会議を開き、(1)名古屋の勝ち(2)PKからやり直し(3)奈良クラブの勝ちの3パターンで議論した。20人中13人が出席し、10人が挙手で最終決定した。7人が(2)を選択し、(1)が2人、(3)が1人で、やり直しが決定。「4番目のキッカーからのやり直し」との見方もあるが、競技のルール上、延長戦までが試合でPK戦は勝負の決定方法、という解釈で、PK戦の最初からのやり直しで最終決定。両クラブに即座に伝え、了承を得た。

 天皇杯実施委員長を兼務する須原清貴専務理事(51)は「両クラブ、選手にはまったく非がない。非があるのは、サッカー協会です」と涙目で謝罪した。日本協会は今日12日に審判委員会を開き、問題となった判断を集中的に討議し、審判員へのペナルティーや今後の対策を検討する。【盧載鎭】

 ◆サッカー競技規則第14条「ペナルティーキック」 その中の「反則と罰則」の項目で、「競技者が1度助走を完了した後、ボールを蹴るためにフェイントをする(助走中のフェイントは認められる)。主審はそのキッカーを警告する」とある。第10条「試合結果の決定」の中の「ペナルティーマークからのキックの進行中」の項目で、昨年から「主審がキックを行うよう合図した後に犯した反則でキッカーが罰せられる場合、そのキックは失敗として記録され、キッカーは警告される」という文章が追加されていた。キッカーが反則を犯した場合はそのキックは無効、失敗として記録され、やり直しがないことを明確にしていた。