FC東京がアウェーでヴィッセル神戸に快勝し、2位ながら首位鹿島と勝ち点56で並んだ。直近3戦は1分け2敗で首位から落ちるなど失速気味だったが、長谷川健太監督(54)が立て直し、強さを取り戻した。3位横浜も勝って勝ち点55とし、優勝争いは三つどもえの様相。残り5戦、首都クラブが悲願の初優勝をかけて突き進む。

   ◇   ◇   ◇

久しくなかった会心の勝利に、長谷川監督は「戦う姿勢を見せてくれた」と選手をたたえた。

開始6分、本来のボランチからトップ下に入った高萩が先制点を挙げる。10分には今季初先発のMFアルトゥール・シルバが左よりから鮮やかなミドルシュートを決めた。さらに34分には日本代表MF橋本が追加点を奪い、前半でけりをつけた。試合2日前の17日までは橋本ら主力組が実に5人も代表に招集されて不在。それでも、8月3日のC大阪戦以来の3得点につなげてみせた。

前節5日の鳥栖戦に敗れ、4月から守ってきた首位から陥落。そこまでの3試合でわずか1得点と失速していた。「勝ち切るより、逃げ切るマインドになってしまっていた」。指揮官の脳裏に、10年前の記憶がよみがえった。

05年から清水を指揮し、最後のシーズンとなった09年。終盤まで首位を走りながら、残り6試合からまさかの5連敗。最終節も引き分け、7位で終えた。当時は失点にばかり目がいった。ただ、いくら対策を重ねても失点への恐怖はぬぐえなかった。チームはその萎縮から抜けられず、5連敗時は13失点を喫した。

苦い思い出を掘り起こし、ミーティングで選手に語った。「失点ばかり研究し『なぜ失点したのか』『この失点をしないように』とばかり言っていたんだ」。選手は黙って話を聞いた。直後の練習では、攻撃陣が球際で激しくやり合う姿があった。失意は繰り返さない。苦しい時こそ守りに入らず、戦う意識が出た。

苦境を乗り越える勝利だ。長谷川監督は「選手は非常に意欲的に取り組んでくれた」と言葉に力を込め、続けた。「残り5つある。しびれる試合が続く中で戦って、勝つことが、強さにつながる」。頼れるリーダーが持つ勝負の哲学を選手も共有し、強い東京が帰ってきた。【岡崎悠利】