サッカー天皇杯決勝は20年1月1日、スポーツイベントとしては初となる、完成したばかりの東京・国立競技場で開催されます。

主要タイトル20冠の常勝軍団・鹿島アントラーズに挑むのは、クラブ初タイトルを目指すヴィッセル神戸です。元スペイン代表MFイニエスタが所属するクラブとしては有名だが、いま1度、神戸の歴史、基礎知識をおさらいします。阪神・淡路大震災やクラブの事実上の経営破綻など、幾多の苦難を乗り越えて現在があります。

Q 神戸とはどんなクラブですか

A 正式名は「楽天ヴィッセル神戸株式会社」です。設立は2004年(平16)1月5日。クラブ事務所やホームスタジアム(ノエスタ)、練習場(いぶきの森球技場)など、いわゆるホームタウンは神戸市にあります。社長は立花陽三氏です。

Q クラブ創設は25年目

A クラブの歴史で言えば1995年(平7)1月に「ヴィッセル神戸」としてスタートしました。同年1月17日に始動予定だったが、その早朝に襲った阪神・淡路大震災で神戸市の練習場は使えなくなり、岡山県など練習場を転々としました。その年はJFLで6位に終わり、Jリーグ昇格はお預け。翌96年の準優勝で念願の昇格を決めました。

Q それ以前は

A 前身は1966年(昭41)創部の川崎製鉄水島(岡山)です。93年Jリーグ元年に「神戸にプロサッカーチームをつくる市民の会」が発足し、岡山から誘致に成功。翌94年に運営会社「神戸オレンジサッカークラブ」が設立され、チーム名は「ヴィッセル神戸」に決まりました。オレンジ色を基調とする大手スーパーのダイエーが当時スポンサーになったため。その後にダイエーが震災の影響で撤退して神戸市中心のクラブになった経緯があります。

Q どんな選手が過去に在籍したの

A 震災の95年に地元神戸市出身で当時清水エスパルスのエースだったFW永島昭浩が、故郷のために移籍志願して途中加入しました。デンマーク代表FWミカエル・ラウドルップ、カメルーン代表だったFWパトリック・エムボマ、カズことFW三浦知良らスター選手も在籍し、西野朗監督ら大物も指揮を執りました。それでも結果はついてきませんでした。

Q 転機は

A 神戸市主体でクラブ運営してきたものの観客動員など伸び悩み、収益面で莫大(ばくだい)な累積赤字を抱え、03年に民事再生法適用でクリムゾン・フットボールクラブに営業譲渡しました。神戸市生まれで楽天を設立した三木谷浩史氏に経営を委ねる、事実上の身売りでした。J1残留が前提の譲渡だったので、この年に下位に低迷した神戸がJ2に降格していれば、クラブが消滅していたかもしれません。翌04年から新生神戸がスタートし、05年からはチームカラーがクリムゾンレッドに変更され、15年から楽天に株式譲渡されています。経営的な背景は変わりつつも、神戸市民にとってはクラブが「復興のシンボル」であり続けています。

Q イニエスタを獲得するほど資金は豊富なの

A Jリーグの発表では18年度の神戸は、営業収益(売上高)がJリーグ史上最高の96億6600万円です。元ドイツ代表MFポドルスキ、元スペイン代表イニエスタやFWビジャら世界的スターを続々と獲得しました。先行投資したことでスポンサー収入や入場料収入が激増し、日本屈指のビッグクラブに成長しました。一方でイニエスタの年俸が推定33億円など、総人件費は鹿島を13億円以上も引き離す44億7700万円と断トツです。補強に投資してきただけに、とにかく結果=タイトルが求められています。

Q ヴィッセルとはどういう意味ですか

A 「VISSEL」は英語の勝利「VICTORY」と船「VESSEL」を合わせた造語です。国際港湾都市・神戸をイメージさせ、クラブマスコットは牛をモチーフにした「モーヴィ」です。これらの事情を知った上で天皇杯決勝を見れば、神戸というクラブのこの試合に懸ける思いが分かるはずです。