川崎フロンターレが史上最速Vを決めた。2位ガンバ大阪との直接対決を5-0で圧勝し、4試合を残し2年ぶり3度目の優勝を飾った。今季は新型コロナウイルスの影響でリーグ戦が開幕直後から約4カ月も中断。見えざる敵の脅威の中、鬼木達監督(46)を中心に結束を深め、攻撃的な新システム4-3-3を進化。J1新記録の12連勝を含む2度の大型連勝で独走し、新型コロナ禍に大黒柱のMF中村憲剛(40)の引退発表など特別なシーズンを、わずか3敗で制した。

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自力Vを告げる笛の音を合図に、主将マークを巻いたMF中村を中心に歓喜の輪が広がった。FW小林が抱きつき、ベンチから選手が駆けつける。肌寒い等々力に湧く温かな拍手を浴びながら、その光景を見ていた鬼木監督はベンチ外の選手やスタッフに歩み寄り、抱き合った。「大勢の人の中で優勝できたのがうれしくて仕方ない。全員の勝利です」。満面の笑みで、シャーレを夜空に掲げた。

異例の1年は見えない敵との闘いでもあった。感染拡大を防ぐため、チームは3月下旬から活動休止。4月15日にはJ1全クラブが活動を停止した。そんな時、あるうわさが流れた。「こっそり練習しているクラブがあるのではないか」。

自粛生活による不安やストレスで日本中が疲弊する中、Jリーガーも例外ではなかった。川崎Fは2月22日の開幕戦で鳥栖に0-0。直後にリーグ戦が中断し、新システムを熟す時間を奪われた。他が練習するなら自分たちも-。誘惑に襲われてもおかしくなかった。

疑心暗鬼。新型コロナが生んだ新たな難敵を振り払ったのは鬼木監督だった。

「おれらにできるのはそうじゃないよね。社会に何ができるか考えよう。医療従事者の人たちのためにも、まずは感染しない、させないことに重きを置いてくれ。サッカーをやれるようになったら爆発しようぜ」

オンラインミーティングで迷いを消した。6月2日に全体練習を再開。感染者ゼロで仕上げてきた選手の動きに目を細め「面白いサッカーをしてトップに立って、Jリーグを引っ張っていこう」と呼びかけた。

目標達成のため、圧倒的な強さを追求した。交代枠が5人に増えた今季は結束力が鍵と見て、ベンチ外の選手の状態も入念に把握。厚い選手層にあぐらをかかず競争をうながした。メンバー選びなど首脳陣の話し合いは午前練習後から午後9時まで及ぶ日もあった。

だからこそ誰が出ても得点力は落ちなかった。リーグ最多の17選手が得点し、1試合3得点以上は17試合。再開から10連勝、8月から12連勝。己を律しながら一糸乱れず戦い、過密日程の特別な1年の頂に、爆発的な強さでたどりついた。

昨季まで3年連続でタイトルを手にしたが、指揮官は現状維持を嫌い、挑戦を選んだ。最短Vに最多勝ち点など記録ずくめの優勝は積み重ねてきた高い志のたまものだ。「今までの経験をチームとして捨てて失敗を恐れずやったことに尽きる。一戦必勝で戦ってきて優勝したので今度は記録にチャレンジすべき」。残り4試合でさらにリーグ記録を塗り替え、天皇杯の頂へ。歓喜を大事にしまい込み、新たな挑戦を始める。【浜本卓也】

▽MF中村「最高以外の言葉が浮かばない。初優勝とは違う光景。僕は乗っかるだけだったし、みんなが強いフロンターレをつくってくれたので、僕は心おきなく先に進みたいなと、あらためて思いました」

▽ハットトリックのMF家長「今日が終わらないでくれ、それぐらいうれしい。1年間チーム全員で戦えた、すごいシーズン。大変な時期にサッカーを応援してくれた人がいっぱいいる。感謝しかない」