私立飯塚(福岡)は日体大柏(千葉)に0-1で敗れた。

前半20分、DFラインのパスミスから相手FWに中央で奪われて、先制点を献上。選手権福岡大会から続けていた無失点の堅守が崩れた。就任8年目の中辻喜敬監督(37)は「(失点の)不運なミスをなかなか、立て直せなかった。(選手権は)実力を出せない場所。勉強になりました」と悔いた。

守備の要のDF松島朝日(3年)が昨年12月31日の2回戦で、全治2カ月となる左足首の靱帯(じんたい)損傷の大けがをおった影響で欠場。DF溝口敢大(2年)が初スタメンで代役を務めたが、守備の不安を露呈した。

松島は試合前、チーム全員1人ずつに手紙を渡した。だが、「その人の特徴を書きました。(15番の芳野には)ドリブルで突破できる場面がある、絶対勝ってくれと。(19番の溝口には)取れると思ったら行ってくれと。楽しんでやってきて欲しいと託しました」と、懸命に届けた願いは実らず。U16日本代表DF藤井は、松島不在に「代わって入った選手も力があるので、そこはチームの総合力だと思う」と振り返った。

初戦では、初出場とは思えない強さで、明桜(秋田)に快勝。新たな歴史を刻んだが、勢いは初出場優勝を狙う相手に止められた。

中辻監督は「自分の現役時代も、選手権はベスト16で終わった。何とか、その壁を超えたい飯塚、福岡の代表として申し訳ない。筑豊の代表として、来ているという思いがあるので、申し訳ないです」と謝罪した一方で、「またこの場所に戻ってきたい」とリベンジを誓った。

ただ、中辻監督の情熱と改革で健闘した。元々大阪市の中学教員だった。だが「当時は東福岡が日本一のチームだったので(監督就任が)福岡になった。日本一になるためには、それが一番てっとり早いと思った」と、「打倒東福岡」が全国制覇への最短ルートと信じて、15年から縁もゆかりもない飯塚で監督就任。夢を追い続けた。

就任当時、サッカー部は休部状態から復活したばかりで、部員は20人ほどの無名校。学校グラウンドの半分は草が生えた劣悪な環境で、「就任あいさつで福岡のチャンピオンになり、日本一になると話したら生徒らに失笑された」。就任1年目は選手権福岡1次予選敗退など地区予選敗退が当たり前の弱さだった。だが、「マンチェスター・シティとリバプールを足して2で割ったサッカーをしたい」という理想を掲げて、信念で生まれ変わらせた。

90分通して強度が落ちない激しいハイプレスや、細かいパスワークが強みだ。昨年末の埼玉遠征で、前回選手権で優勝した青森山田と対戦してスピード、パワーで圧倒されて完敗。その教訓から、今年はさらに毎日のフィジカル強化や、夏場に地獄の4部練習を10日間行うなどして、0・01秒、10~15センチを縮めることにこだわってきた。

強化のためと、あらゆる事を試した。本田圭佑が開発に関わり、Jクラブも多数採用する衛星利用測位システム(GPS)「ノウズ」を導入したことで、運動能力が格段に向上。昨年はヨガトレも取り入れた。練習時間は試合と同じ90分で、徹底した時間管理で集中する。試合後には、体力回復のために豆乳ドリンクを飲む。「プレーは見た目から」と、試合当日に理髪店の出張散髪で整えて出陣するなど、がむしゃらに向き合った。その成果が出て、選手権福岡決勝ではプレミアリーグ西地区所属の東福岡に圧勝。初出場とはいえ、完成度は全国レベルだった。

3回戦で敗れたが、メンバー20人中2年生8人、1年生2人。貴重な財産を糧にさらなる高見を目指す。【菊川光一】

【高校サッカー スコア速報】はこちら>>