サッカーの元日本代表で現役引退を表明したMF藤本淳吾(38)が12日、都内で引退会見を行った。12月27日に、今季限りで現役を引退すると発表していた。

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いつもフランクで壁を作らない。誰に聞いても、ほぼ「淳吾はいいやつ」と返ってくる。そんな藤本淳吾の節目にぴったりの引退会見だった。会場は渋谷のスポーツバーの一角。所属のマネジメント事務所が主催したアットホームかつ、立派な晴れ舞台は、お店の夜営業の準備があるからか、設定は1時間一本勝負。主役は自らマイクを握って丁寧に、いろいろな質問に自分の言葉で答え続けた。気付くともう1時間。あっという間だった。

今後は指導者になり、監督を目指す。第2の藤本育成について振られると、「(チームに)僕みたいなタイプばっかりだと、ボールを持っても、結局点が入んなくてカウンターで負けるサッカーになると思うんで」と自虐ネタで笑わせた。話術の引き出しも十分。伝えるという部分でも、指導者としての可能性を感じさせるひとこまだった。

筑波大から06年にプロになった。清水でいきなり10番を背負いJリーグの新人王に輝いた。翌年、長男が生まれた。癒やしを与えてくれたかわいい赤ちゃんは、しっかり育ちサッカーを始めた。たくましくなり、もう中学3年生。身長173センチの藤本と身長はほとんど変わらないほど、大きくなった。

引退会見の終盤、立ち会った家族を代表して花束を渡したのはその人、長男歩優(あるま)さん(15)だった。プロを目指し、父の背中を追いかけてきた。高校はサッカーの強豪へ進学予定。歩優さんの夢は大きい。「(父を)超えたいですし、いつか、監督をするチームで一緒にプレーをしたいです」。真っすぐな目をして言った。

ともにJリーガーとしてピッチに立つ夢をかなえることはできなかったが、次は監督と選手として出会う日を、親子で思い描く。左利きのテクニシャンだった父は、笑いながら「右利きだし、俺とはタイプが違う。サイドでもガツガツやれるし」とやさしい目をして、そのプレーぶりに期待を寄せた。

40歳まで現役と、家族にも誓っていた。38歳での引退は「監督になる」という目標が定まり、早くスタートを切るためだったが、ほかにも理由がある。「いまある家から、また自分1人で(単身赴任で移籍先に)行ったりとかを考えたとき、それより家族と一緒に生活する方がいいと」。これからは指導者として、教え子たちと愛する息子に夢を託し、日本サッカーを後押しする。【八反誠】