93年のJリーグ開幕から今週30周年を迎える。開幕日で「Jリーグの日」と記念されている5月15日を前に、Jリーグ初代チェアマンである日本サッカー協会(JFA)の川淵三郎相談役(86)が取材に対応した。プロスポーツの成功は観客動員数にあるとの考えを熱く語った。【取材・構成=岡崎悠利】

    ◇   ◇   ◇   

当時は耳慣れない「チェアマン」の呼び名で親しまれたころと変わらない情熱で、川淵氏は言葉をつないだ。

「僕に言わせれば、プロの価値は観客動員がすべて」

自身が国立競技場で「開会宣言」を行った93年。ヴェルディ川崎(現東京ヴェルディ)と横浜マリノス(現横浜F・マリノス)による開幕戦は超満員の盛り上がりとなった。1年目の平均観客動員数は約1万7976人を記録した。

「世界的に見てもJリーグの平均観客数は悪い方ではないけど、僕のイメージは、(J1全体で)1試合平均2万5000人は入るようなリーグになってほしいというのが率直な思い」

コロナ禍に見舞われる直前の2019年シーズンは、J1で初めて年間平均観客動員数が2万人を突破。Jリーグが持つ可能性は十分にあると感じている。

5月6日に行われた、アジア・チャンピオンズリーグ決勝第2戦。浦和レッズのホーム、埼玉スタジアムには、5万3000人を超えるサポーターが詰めかけてチームを後押しした。

「やはり日本一のサポーターだなということを再認識させられた。あのサポーターの力があって、浦和レッズは勝ったんだよね。間違いなく」

スタジアムに熱気を生む観客の存在が、チームにとって見えない力になることをあらためて証明する一戦だった。

観客が集まることは、クラブの成長にも直結する。だからこそ、興行の成功として観客動員数を重視する。

「お客さんがたくさん来れば、スポンサーも多くつく。観客5000人以下しか入らないところに、大きなスポンサーがつこうとは思わないでしょう。やはり3万とか4万とか、入っているところにスポンサーをしたほうが自分のメリットとして返ってくるとかあるわけで」

スタジアムにどれだけ多くの人に足を向けてもらうか。地元密着の活動を続ける、スター選手を獲得する-。明確な答えはない。各クラブが、腐心を続けている。

「何か1つで、大きく変わるとは思えない」

簡単ではないことを理解しつつ、開幕年の当初を思い返した。

「若い女性がかなり来ていた。武田(修宏)や三浦カズの練習で、見ている女性が動いていたりするくらいだった。浮動票をどう集客して、固定客にするか。はじめに浮動票を集める努力とはなにかというところじゃないか」

先日、プロ野球のヤクルトとオリックスの試合を観戦に訪れた際に驚いたという。

「ネット裏に若い女性がたくさんいた。『昔、ここは年寄りばっかりだったよね。お年寄りが高いお金を出して座るところじゃないの』という場所に、若い女性や男性、とくに女性が目立った。びっくりした。野球界、変わったな、って」

Jリーグのファン層は、年々、高齢化する傾向にあった。プロ野球からすべてを模倣すればうまくいくとは限らない。ただ、他のプロスポーツがファンの若返りで成功例を作っていた。

「サッカーもこれくらい若い人たちの人気を集められるように工夫しなきゃ、と。プロが成功しているかの一番大きな要素は観客動員以外なにもないというのが、僕の結論というか、思い。そこを否定出来る人はそんなにいないんじゃないかな」。

いくらテレビで放送し、質の高い試合をしたとしても、スタジアムが盛り上がってはじめて、プロスポーツには価値が生まれると考える。

コロナ禍こそが、観衆がいかに重要かを再確認するタイミングになったという。21年に開催された東京五輪では選手村の村長を務め、自国で無観客で開催されたスポーツの祭典を見守った。

「日本は歴史上、取ったことがない数のメダルを取った。その感動と興奮が(どれだけ)あったかな。テレビで見る人も、スタジアムに詰めかけた人が大歓声を上げるのを見ながら興奮するんだ、間接的に。テレビで中継しているから、それでスポーツとして十分に成り立つなんて言うのは大間違い。スポーツは観客があってのもの。生で見るものなんだよ」

Jリーグ開幕から30年。当初10だったクラブ数はいまや60クラブに増えた。そのすべてが、コロナ禍による無観客や上限の設定などさまざまな制限を乗り越えた。

「もう30年後は、生きていないから。どうなっているかは分からないよ」

いたずらっぽく笑みを浮かべたその表情は、今後、Jリーグが再び成長を加速させていく姿を信じてやまない様子だった。