第102回全国高校サッカー選手権は28日、東京・国立競技場で開幕する。注目校3回連載の最終回は、初出場の早稲田実業(早実=東京B)。チーム内で個の技術差はあるものの「利他の心」で堅守を構築し、東京都予選を5試合15得点の無失点で創部56年目の悲願を達成した。「文武両道・サッカーの早実」の第1歩を踏み出すべく、まずは全国1勝をつかみ、国立に「紺碧の空」を響かせる。開会式後の開幕戦で広島国際学院と対戦する。午後3時キックオフ。

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国立での初陣だ。抽選で開幕戦を引き当てたMF西山礼央主将(3年)は「狙っていました。チケットの売れ行きも聞きました。観客席にはたくさんの方が来てくれると思う」とワクワク感を口にした。

部員の半数は中等部からの内部進学。「勉強もサッカーも頑張りたい」と中学受験で早実中に入学し、クラブチームのジュニアユース(U-15)でプレーする選手が増えている。

エースFW久米遥太(3年)も早実中に通いながら東京武蔵野シティでプレーしていた1人だ。一方で、中学はバスケットボール部に所属し、高校でサッカー部に入部する選手もおり、部員のレベルはまちまちだという。

久米は言う。「全国に出るチームで一番、部内でレベル差はあると思います。(先発)11人の中でもレベル差がある。だからこそ、弱点を出さないように考えて、弱点を味方で補い、助け合ってやっています」。

そこに森泉武信監督(52)がチームのため、仲間のための「利他の心」を植え付け、常に最悪の事態を想定し、仲間を助ける守備を整備した。都大会を無失点で勝ち上がり、野球やラグビーに負けじと初の選手権切符をつかんだ。

仲間のカバーのためには走力が必須。夏の長野合宿では「朝食前の2キロ走」など、徹底して走り込んだ。試合では守勢に回る時間が長いが、勝利からの逆算で「愚直さを守備で表現しないと勝てない」と、チーム一丸となりハードワークする。これが早実のスタイルだ。

3バック中央を務める守備の要、DF若杉泰希(3年)は「自分たちは技術、フィジカルは平均値で言うと全国に出られるレベルではない。でも、何かでは上回らないと全国には出られないと思っている。それが予測や利他の心。周りを考えて動くところは、森泉先生の下で、日常生活から学んできた」と胸を張る。

競技は違うが、夏の甲子園(全国高校野球)で慶応が優勝し、応援歌「若き血」が大合唱されるニュースで見て刺激を受けた。早稲田にも、大学を含めてOBが愛する応援歌「紺碧の空」がある。都大会でも得点するたびに、観客席にとどろいた。

主将の西山は「全国大会は後輩に何を残せるか。自分のためでなく、そこは利他の心で。学校のために戦いたい」。国立に「覇者、覇者、早稲田」を響かせ「サッカーの早実」の歴史を刻む。【岩田千代巳】(おわり)