FIFAワールドカップ(W杯)が終了し、約50日ぶりにスペインリーグが再開された。そんな中、レアル・ソシエダードのサポーターに待望の“クリスマスプレゼント”が届けられている。

それは昨年の大晦日に行われたスペインリーグ第15節オサスナ戦のことだった。久保建英がW杯後に初出場した一戦で、チーム不動のエースFWオヤルサバルが9カ月半ぶりとなる戦列復帰を果たしたのである。

昨年3月17日の練習中に左足前十字靭帯(じんたい)を損傷し、長期離脱を余儀なくされ、期待されていたW杯出場を断念せざるを得なかったが、22年を締めくくる試合の後半42分、ピッチに現れたエースの姿にサポーターは歓喜した。

昨季のRソシエダードはスペインリーグを6位で終え、3年連続の欧州リーグ出場権を獲得したものの、シーズンを通じて決定力不足という問題を抱え続けていた。その最大の原因はエースの負傷離脱に他ならなかった。

オヤルサバルは昨季、けがでスペインリーグ14試合を欠場したにもかかわらず9得点を挙げチーム得点王。さらに公式戦33試合で15得点を記録。終盤全く試合に出られなかったにもかかわらずチームトップの得点力を示し、Rソシエダードにとって欠かせない存在であることが改めて証明されていた。

今回のエース復帰はこの後、Rソシエダードにどんな変化をもたらすのだろうか。

アルグアシル監督は昨季、オヤルサバルが左サイドを起点に攻撃的なプレーができるように、主に4-3-3や4-2-3-1で戦った。一方、エースの長期離脱後、中盤ダイヤモンド型の4-4-2に初めて変更した。これは以前久保も説明していたが、オヤルサバルが得意とするようなアウトサイドのポジションが存在せず、MF陣がインサイドでプレーするシステムである。監督は今季もこれを採用し、スペインリーグ3位、欧州リーグ1次リーグ首位通過という好結果を残している。

しかし昨年末に監督は、オヤルサバルを迎え入れるための準備と思われる大きな動きを見せ始めている。W杯後最初の公式戦となった国王杯2回戦コリア戦で久々に4-3-3をテストすると、オサスナ戦でも同システムを採用。これは明らかにエース復帰に備えたものと感じられた。

このままアルグアシル監督がシルバ、ブライス・メンデス、ミケル・メリーノ、スビメンディのMF4人を同時起用して大成功を収めてきた中盤ダイヤモンド型の4-4-2を捨て、オヤルサバルを左ウイングで起用するため4-3-3に完全移行するかどうかは現時点で分からない。

しかしオヤルサバルが完調した場合、スタメン入りは間違いないと見られており、久保に大きな影響を及ぼすことが予想される。昨季の起用法を見る限り、監督が引き続き4-3-3で臨むことが濃厚と言える。その場合、絶対的なレギュラーである上記のMF陣と、オヤルサバルとセルロートのFW陣が、中盤から前線にかけての6ポジション全てを占める可能性がある。

久保は今季のRソシエダード加入直後から現在に至るまで、けが人続出の中、未経験の2トップの一角で主に起用されながらも及第点のパフォーマンスを発揮し、ここまでスペインリーグで2得点2アシストを記録するなど、監督の期待に見事応えてきた。一方、システムが4-3-3に変更されたオサスナ戦では得意の右ウイングで先発出場し、ブライス・メンデスの先制点をお膳立てしてスペインメディアに高評価されていた。

しかし、この試合ではオヤルサバルが途中出場、ミケル・メリーノが出場停止だった。そのため今後、本格的に4-3-3が採用され、センターフォワードにセルロート、左ウイングにオヤルサバルが起用されると仮定した場合、久保は右ウイングの熾烈なポジション争いに挑むことになるだろう。

その最大のライバルとして、今季のチーム得点王かつナンバーワン選手のブライス・メンデスを挙げられるかもしれない。なぜなら、不動のレギュラーであるMF4人の特性を考慮した場合、ミケル・メリーノ、スビメンディ、シルバが中盤の3枠を占め、昨季まで所属したセルタで右サイドの攻撃的な選手として活躍したブライス・メンデスが右ウイングに回る可能性が高いためである。

その他、けが明け後すぐにいい動きを見せている快速のチョー、コリア戦で右ウイングを務め先制点を記録したナバーロ、そして負傷中のカルロス・フェルナンデスやバレネチェアも右サイドでプレーできるため、復帰した場合にライバルとなり得る。

さらにクラブ史上の移籍金最高額で今季入団したセンターフォワードのサディクが、加入直後の大けがで驚異的な回復力を見せ、予想よりも早く戦列復帰する可能性があることも何らかの影響を与えるかもしれない。

これらの状況を踏まえた場合、多数のライバルが存在する久保の取り巻く環境は非常に厳しいと思われる。しかし久保にはこれまでに培ってきた実績、まだ21歳にもかかわらず、すでにスペインリーグで100試合以上出場している豊富な経験があり、アルグアシル監督の一定の信頼を得ているため、けが人復帰でチーム内の競争はシーズン前半に比べ格段に上がる可能性はあるものの、今後もスタメン入りのチャンスは十分あるだろう。

Rソシエダードはこの後、スペインリーグ、欧州リーグ、国王杯を戦い抜く過密日程に臨むことになる。オヤルサバルという大きな武器を再度手にしたアルグアシル監督がどのようなタクトを振るのか、その手腕に注目したい。

【高橋智行通信員】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)

レアル・ソシエダードMF久保建英(ロイター)
レアル・ソシエダードMF久保建英(ロイター)