ワールドカップ(W杯)北中米大会に、ドイツの大手サッカー代理人事務所「Sports360」所属の日本代表選手が5人出場した。同社でエージェントをしている龍後昌弥さん(34)が初の著書「最強の代理人」(KADOKAWA)を刊行。このほど取材に応じ、現地観戦した日本戦全4試合を総括した。(取材・構成=佐藤成)
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「最強の代理人」はW杯をどう見たのか。自身が担当するのは、MF久保建英(25=レアル・ソシエダード)、DF菅原由勢(26=ブレーメン)、FW小川航基(28=NECナイメヘン)、瀬古歩夢(26=ルアーブル)、FW塩貝健人(21=ウォルフスブルク)の5人。大会後にはMF鎌田大地(29=クリスタルパレス)も加わるなど、関係する選手たちが大舞台で活躍した。
「代理人というよりは、いち日本人として観戦しましたよ。例えばオランダ戦は(担当の)小川選手のヘディングに歓喜しました。菅原選手と塩貝選手はデビューしたうれしさはありましたが、久保選手はケガをしてしまったので、本当にいろいろな感情が心の中でわき上がっていましたね。」
チュニジア戦では瀬古がデビュー。5人全員がピッチに立つ姿を現地で目に焼き付けた。全4試合のうち、印象深いのは決勝トーナメント1回戦ブラジル戦だ。
「佐野海舟選手が決めたときは担当しているなど関係なく、日本人として心から叫んで喜び合いましたし、負けが決まった時はシンプルに悔しかったです。日本の勝利を願っていたので、悲しいというか、もう終わってしまったのか、と。もっとできたことはあったのではないかな、という思いにもなりましたね」
試合後に選手たちと会話するなかで感じたのは彼らが自らに矢印を向ける素直さだった。選手たちの進化はもちろん、サッカー界全体として成長の余地はまだまだあると実感した。
「個の強さや育成の重要性に着目する声もありますが、世界と交渉していく我々エージェント、そして情報を発信していくメディアも、育成からプロまでの指導者も含めて、関わる全員が自分たちにできることはなにかを追求しないといけないのではないかと選手たちの姿を見て思いました。僕らの場合でいえば、選手たちをよりよい環境、チームに導ける政治力、交渉力、コネクションを磨かないといけないと痛感しました」
W杯4度制覇のサッカー大国ドイツで暮らす。世界基準のサッカー文化を体感する中で、日本の成長はひしひしと感じる。「(ジャーナリストの)ロマーノのX(旧ツイッター)でブラジルと日本の勝敗予想アンケートをしたら、51%対49%の僅差だったのを見ました。世界がそう見ている。もうそこまで日本も来ているんです。選手たちの頑張りで積み上がっているものは確かにある」。
日独のメディアの違いにも言及した。ドイツは決勝トーナメント1回戦でパラグアイにPK負け。日本と同じくベスト32で敗退した。
「ドイツの新聞『Bild』なんかは、試合翌日にロッカールームでどんな会話が交わされていたかまで報じます。ナーゲルスマン監督はうちの事務所のクライアントですが、事務所で働く僕たちですら知らないようなあらゆる内容が載っており、毎日アップデートされていきます。『今回のドイツチームは家族時間を大切にしていたが、監督はパートナーとサイクリングに興じていた。浮かれていたんじゃないか』とか。監督批判やPKを蹴りたがらずに拒否した選手の情報など含めて徹底的に厳しく追及する中に問題提起があるのかもしれません。もちろんウソやでたらめもありますし、過剰な表現もありますが本当に多くのことを取材して知っていて、その中でどの要素を出すか。問題提起して未来につなげるのか。記者おのおのに色があるし、書くことによるバッシングを恐れないそのジャッジも含めて進んでいる気がします」
日本ではオリンピックや野球のWBCも大きな影響力がある。ただ世界全体が熱狂するという意味ではサッカーW杯が最大のスポーツの祭典といえるかもしれない。
「スポーツの真の魅力、サッカーの社会的影響度を感じました。これこそがスポーツの力。ただブラジル戦を見ると、会場の75%くらいはブラジルサポーターでした。熱気を増していく必要を感じたし、これから4年間の道のりの中身を変わらずに追求して見て頂きたいですね。そうすれば4年後に見る深さとストーリーがまた変わるはずなので」
世界中が熱狂するからこそ、の出来事もあった。最年少の塩貝がブラジル戦前に、「昔は強かった」などと発言して物議をかもした。試合後に相手から挑発されるなど、騒動となった。龍後さんはこう受け止めた。
「インスタグラムのコメントは100万件くらい来ていました。サッカーの影響力を感じましたね。彼としては、これをチカラに変えて、さらに成長し、4年後リベンジしてくれると信じていますし、一緒にまた一からやっていきますよ」
龍後さんは単なる代理人ではなく「伴走者」として選手に寄り添い、ともに駆け抜けてきた。その思いはこれからも変わらない。
「各選手と目標設定をし直して、4年後に向けてやっていきます。自分自身もエージェントとして、パートナーとして、影響力をつけないといけないし、追求していかないといけない。もっとやれることはあるはずですから」
自戒を込めて、そう言った。日本代表の幕は閉じたが、世界一への歩みは再び始まっている。


