[ 2014年2月13日9時17分

 紙面から ]銀メダルを獲得した平野(撮影・PNP)<ソチ五輪:スノーボード>◇11日◇決勝◇男子ハーフパイプ

 ちっちゃい歩夢が、歴史に残る大仕事をやってのけた。11日(日本時間12日未明)のスノーボード・男子ハーフパイプ(HP)で、初出場の「天才中学生」平野歩夢(15=バートン)が93・50点で銀メダルを獲得した。15歳2カ月でのメダル獲得は、冬季五輪の日本選手最年少記録。さらに日本スノーボード界史上初のメダルで、雪競技としても02年ソルトレークシティー以来、3大会ぶりのメダルとなった。

 14本の照明に照らし出されたパイプから、平野が夜空に舞った。決勝2本目、最初のエアの高さは4・3メートル。直前の平岡が92・25点で2位につけ、闘争心に火がついた。「これはやんなきゃな」。3つ目のジャンプを難易度の高いものに変え、着地まで完璧に決めるとチームメートを超えた。

 決勝で2本とも90点台でそろえたのは、たった1人。高いエアと、安定した強さを見せた。銀メダルに倒れ込んで抱き合うコーチ陣と対照的に、いつも通り冷静だった。「卓にもがんばってほしかったけど、少し自分が上回れてよかった」とはにかんだ。

 日本スノボ界の歴史の扉が開いた。98年長野五輪で正式種目になって以来、メダル候補に挙げられながら成績を出せず、前回五輪では服装の乱れが問題になるなど、悪いイメージもあった。その流れを、数々の記録を塗り替えてきた超新星が変えた。13年1月のXゲームで14歳にして2位に入り、最年少メダリストに。同8月には、W杯カードローナ大会において初出場でW杯最年少優勝。そして今回、冬季五輪日本選手最年少で悲願のメダルをもたらした。「結果を残せば歴史に残ると思っていた。意識はしてなかったけど、最年少なんだろうなぁとは思っていた」と話した。

 代表チームとしての新たな取り組みも、平野を後押しした。前回五輪後から、メンタルコーチをスタッフに入れた。北京五輪で柔道金メダルの石井慧も指導していた柘植コーチが、面談などを通じてサポート。ソチ入り後もメールなどで平野とやりとりをしていたが「やってきます!」と普段通りだったという。また今季は元五輪代表の国母和宏を、テクニカルコーチとして迎えた。米国遠征やニュージーランド遠征の際、選手を直接指導。高い技術を後輩に伝えていた。

 チームで「感謝」というスローガンを掲げた今大会。歓喜から一夜明けた12日の会見で、平野は両親への気持ちを明かした。3歳年上の兄英樹(えいじゅ)と4歳からスケートボードとスノーボードを始め、練習環境を整えようと父英功(ひでのり)さん(42)は自宅近くに屋内のスケート場「日本海スケートパーク」を造ってくれた。「小さいときからずっと教えてくれたから、結果につながった」と話した。

 メダルに沸き立つ周囲に対し、「順位が悔しい」と満足感はない。まだ15歳。「五輪はあとどれくらい出られるかな。限界を感じるまで出たい」。次はどんな記録を塗り替えるのか。あどけない笑顔に、限りない可能性を秘めている。【保坂恭子】

 ◆平野歩夢(ひらの・あゆむ)1998年(平10)11月29日、新潟県村上市出身。村上南小-村上一中。4歳でスノーボードを始めた。小学4年でスポンサーがついた。初出場のW杯今季開幕戦で全種目を通じて最年少優勝。13年冬季Xゲーム2位。高さのある空中技が得意。160センチ、50キロ。