昨年の日本人トップ、井上大仁(25=MHPS)が、2時間6分54秒で5位に入った。30キロすぎまで先頭集団に食らいつく、積極的なレースを展開。38キロすぎに2位になった設楽悠太に抜かれたが、その設楽とともに日本人16年ぶりの2時間6分台を記録する意地を見せた。

 自己ベストを1分28秒も更新しての2時間6分台。それでも井上は「悔しさしかない」と険しい顔を崩さなかった。日本の宿敵に43秒遅れてのゴール。「自分がゴールする前に、日本記録のアナウンスが流れてきた。思い出しただけで歯がゆくなる」。とても記録を喜ぶ気分ではなかった。

 38キロすぎが勝負の分岐点だった。後方から追い上げた設楽悠に抜かれた瞬間、焦りがよぎり、リズムが狂った。くしくも昨年、設楽悠を抜き去って日本人トップにたった地点でもある。「去年とは逆だと考えると体が硬くなった」。ライバルの気迫のお返しに、心のペースも乱された。

 もっとも昨年の大会で記録した2時間8分22秒を、大幅に更新した成長は目を見張る。30キロの長距離をハイペースで走り続ける練習と、長崎の逆風の中で走力を鍛え抜いた。「力がついているのは感じた。このまま続ければ(2時間5分台は)必ず出せる」と手応えは感じていた。

 昨年の世界選手権で26位に沈み、世界との差を痛感した。その後、腕から時計を外した。「時計に依存せずに、自分の感覚を研ぎ澄ます」のが理由。「海外勢と勝負をしたい。勝ちたい。今後もその目標でやっていく」。井上の視線は設楽悠の先の世界に向けられていた。【首藤正徳】

 ◆井上大仁(いのうえ・ひろと)1993年(平5)1月6日、長崎・諫早市出身。鎮西学院から山梨学院大に進学。14年の関東インカレ1万メートルで2位。1万メートルの自己ベストは28分8秒04。15年にMHPSのマラソン部に入部。同社では長崎プラント建設部に所属。165センチ、51キロ。