陸上で3度の五輪に出場した為末大氏(40)が、社会的課題に着目した新たなトップアスリートづくりに動きだした。

同氏が代表理事を務める一般社団法人「アスリートソサエティ」は3日、東京・江東区の新豊洲Brilliaランニングスタジアムで、母子・父子という「ひとり親家庭」の子どもたちを対象にした陸上教室を実施した。

今回は「未来のトップアスリート発掘育成プロジェクト」とし、才能の原石探しが狙い。公募で集まった小学5年生から中学2年生の約40人が参加した。

為末氏とともに同氏が代表を務めるかけっこスクール「TRAC」のコーチ陣が指導にあたった。和やかなムードの中、速く走るための基本的な動作や、さまざまなステップ練習、そして最後は50メートル走を測定。体を動かす楽しさから、子どもたちは自然と笑顔になった。

この陸上教室で選抜された子どもは、りそな未来財団の支援のもと、TRACのスクールにおいて授業料免除で1年間の継続指導を受けることになる。

今回のプロジェクトの背景にあるのは、ひとり親家庭で見落とされていた子どもたちの才能をすくい取り、成長する機会を設けたいという考えからだった。

厚生労働省の調査発表によると、ひとり親家庭の就業率(2016年)は母子家庭81・8%、父子家庭85・4%と、全世帯の就業率(女性66・0%、男性82・5%)より高い。つまり子どもたちが放課後に習い事を希望しても、親に時間的余裕がないためサポートが難しく、あきらめざるを得ないことが多いという。

為末氏は「日本にはそこを学校の部活動がサポートする仕組みがあったんですけど、少子化や、先生の労働環境もあって難しくなっている。教育の差が少しあるところをどうやってスポーツの部分で埋めるか、という一環です」と解説する。

その上で「本当なら全員すくい上げるのがいいですけど、まずは能力のある子をピックアップする。我々もスカウティング前提でやるのは初めてです。普通はどう速くなるとかトレーニング前提なんですけど。こちらで選んで『陸上やってみない?』と誘う。そういう仕組みになります」と話した。

この「発掘育成プロジェクト」は今回を手始めに、東京以外にも大阪などでも開催予定。さらに来年以降も継続していく計画だ。

マルチな才能を発揮する為末氏らしい、社会的課題とスポーツをマッチングした新たな一手。ここから未来のアスリートは誕生するのか、今後の動向に注目したい。【佐藤隆志】