【ブダペスト(ハンガリー)=藤塚大輔】この種目で日本勢初の2大会連続決勝進出を遂げていたサニブラウン・ハキーム(24=東レ)が6位に入賞した。10秒04だった。金メダルはノア・ライルズ(26=米国)が今季世界最高の9秒83で獲得した。

男子100メートルの、オリンピック(五輪)も含めた世界大会の日本勢最高位は1932年ロサンゼルス五輪「暁の超特急」吉岡隆徳の6位だったが、ほぼ1世紀となる91年の時を経て、サニブラウンが肩を並べた。

8レーンから飛び出し、世界の列強相手に食い下がったが、納得できなかった。レース後の第一声では「悔しい」を4度、連発した。

「いやーーーマジで悔しいですね。最初からうまく組み立てることができず、中盤で伸びず、終盤に離された。全く満足してないですね。いやーーー悔しい。今年、マジで(表彰台に)いけると思ってたんで、いやーーーマジで悔しいですね。準決を通って、とりあえず良かったなと思って。でも他の選手を見てると、ここでもう1段階、ギアを上げてくるんで。今年も身に染みて感じました」

今季は春先から本来の実力を発揮できていなかったが、夏へしっかりと調子を上げ、合わせてきた。6月上旬の日本選手権決勝では左足をつり、10秒59(向かい風0・2メートル)でまさかの最下位。世界選手権へ暗雲が垂れ込めても「日本選手権はまだ通過点。ここから仕上げていければ」と弱音を漏らさなかった。

世界ランキングで何とか5大会連続の代表入りを果たすと、見違えた姿を披露する。今大会の予選(前日19日)を10秒07の自己ベストで突破すると、準決勝では自身4度目の9秒台となる9秒97(追い風0・3メートル)をマーク。24年パリ五輪の参加標準記録(10秒00)を突破し、ライルズ(米国)に次ぐ準決勝1組2着でファイナルに返り咲いた。日本勢初の2大会連続だった。

「(準決勝の9秒97には)今年は去年と違って、決勝と間隔が空いていて調整が変わったんですけど、調子は悪くなかったんで、集中して組み立てられれば違ったかなと。今年は比較的、去年と違って冷静に決勝へ入ることができて。でも予選と決勝では練習でやってきたことを出せたんですけど、決勝で出せなかったことが敗因かな」

言葉通り、昨秋の日刊スポーツ単独インタビューでも、次のように「1年後=今大会」のイメージを膨らませていた。

「決勝の舞台と(予選、準決勝を含め)3本を走った経験はものすごく大きい。もっともっといい結果を望んでいた中、悔しい半分、うれしい半分、で終わったけれど、いい結果だったと思う。いかに疲労を残さないようにするか。準決勝はほとんど全力で走った部分もあったけれど、そこを抜けた後、またリラックスして臨むメンタルが大事。今回(22年オレゴン大会)は抜けて少し安心していた部分もあったので。そこでもう1度『行くぞ!』となれる集中力が必要。フィジカル面も、ものすごくハイレベルなところで3本を走った上で『まだまだ行けるぞ!』とすることが理想です」

今年は、準決勝と決勝の間隔が前回の1時間50分から2時間30分ほどに伸びたものの、経験を生かして7位から6位に順位を上げ、新たな歴史を刻んだ。今年のレースを終え、より自信は深まった。

「今年の方が、もっと近かった感覚があったんで。めちゃくちゃ悔しいですね。でもメダルは手に届きそうなところにきてるんで、つかみたいですね。そろそろ」

日本の短距離界に新たな歴史を刻み続ける男は、トラック外でも奮闘してきた。今年4月に東レとの所属契約を締結。19年11月のプロ転向後の活動の幅を広げた。「少しでも陸上を好きになってもらえる取り組みをしたい」との思いから、日本選手権では準決勝、決勝のチケット約100人分を購入。子供たちをスタジアムに無料招待していた。

「結果を出すことは大切だけど、子供たちを会場に招待したり、応援する楽しさを実感してもらうことも必要」

日本選手権は不完全燃焼だったが、より大きな舞台で2年連続の人類最速決定戦に進出した。昨年は7位も「リベンジしたい」とレース後に即答。有言実行で最高峰舞台に戻り、順位を上げた。常に新たな景色を見せてきたサニブラウン。その求道は来夏のパリへと続く。

◆サニブラウン・ハキーム 1999年(平11)3月6日、福岡県生まれ。ガーナ人の父と日本人の母を持ち、小3で陸上を始める。15年7月世界ユース選手権100メートル、200メートル2冠。同年の世界選手権北京大会は200メートルに同種目世界最年少の16歳で出場し、準決勝に進出した。17年ロンドン大会は200メートルで史上最年少(18歳5カ月)の決勝進出を果たし、20秒63で7位入賞を果たした。東京・城西高卒業後はオランダ留学を経て17年秋にフロリダ大へ進学、拠点を米国に移した。19年に100メートルで日本記録(当時)の9秒97をマーク。プロにも転向した。23年4月から東レ所属。190センチ、83キロ。血液型O。