女子は鈴木優花(24=第一生命グループ)が2時間24分9秒で1位、一山麻緒(26=資生堂)が2時間24分43秒で2位になり、代表に決まった。2大会連続の五輪出場となった一山は「陸上をやってきた中で一番うれしい2番」と喜びを表現した。一方で日本記録保持者で夫の鈴木健吾(富士通)が途中棄権。夫婦そろっての内定を決められず、複雑な思いから涙ぐむ場面もあった。

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国立競技場に入るとそこには声をからす夫がいた。スパートをかける一山に対し、トラック脇から大声で鼓舞していた。背中を押され、迫り来る細田を懸命に振り切った。7秒差で2大会連続の五輪切符をつかんだ。涙とともに両手をたたいて喜びを爆発。「陸上をやってきた中で、一番うれしい2番でした」。独特の表現とともに安堵(あんど)の表情を浮かべた。

苦しいレースだった。土砂降りの雨の中、予定より早く23キロ付近で先頭に飛び出し、引っ張った。残り4キロから足に疲労がたまり、太ももの後ろの筋肉は悲鳴を上げた。スパートに離され順位を2位に下げたが、ここから粘った。「後ろとあまり差がないというのは分かっていた。ドキドキしながら走っていた」。夫の姿は最後の力を振り絞る力水となった。

東京五輪の翌22年4月に資生堂に移籍した後は思うような走りができなかった。昨年7月の世界選手権は新型コロナ陽性で欠場。同年12月には肋骨(ろっこつ)を疲労骨折し、5年ぶりの故障も経験した。今年3月の東京マラソンでは14位に沈んだ。「自分の走りに自信が持てない日々が続いた。走ることに対してもういいかな、走りたくないなと思うことも増えた」。競技への熱をつなぎ留めたのは鈴木の存在だった。夫唱婦随で互いを高め合い、折れそうな心を保つことができた。

レース後の会見で、夫について話を振られると涙ぐむ場面もあった。「パリに向けて一緒に頑張っていこうという声かけや支えがあった。走っている時も最後まで夫婦でパリに行きたいという思いだった」。夫への感謝の思いとともに、途中棄権に終わった心中もおもんぱかった。【村山玄】

◆一山麻緒(いちやま・まお)1997年(平9)5月29日生まれ、鹿児島県出身。出水中央高出、資生堂所属。初マラソンだった19年3月の東京で日本女子トップの7位。20年の名古屋ウィメンズで日本歴代4位の2時間20分29秒で優勝し、東京五輪代表入り。五輪では日本勢4大会ぶりの入賞となる8位。21年12月に鈴木健吾と結婚。