今年も残すところ1カ月を切った。スポーツのメインイベントであった東京2020大会も1年の延期を経て開催にいたり、多くのドラマ、感動があった。自国開催ということもあり注目度も高く、たくさんの日本人選手が活躍し、印象深い大会にもなった。

一方、東京五輪が終わったことで、一区切りをつける選手や、サポートを退く企業もあるだろう。

「今後のスポーツ界には何が必要か」「アスリートの価値とは?」今回はそんな話をしていこうと思う。

私は元々陸上競技が主戦場だったので、企業に属する実業団アスリートとしての経験もあり、トライアスロンをはじめてからプロアスリートとしての経験もある。

企業に属する場合は、「走ること」でその企業の広告塔となり、社員の皆さまの士気を高める役目も出来ていた。もちろん、社員の皆さまがいて、社会人アスリートが成り立つし、社員の皆さまに応援してもらえる、愛される存在でなくてはならない。

日本は駅伝文化もあり、陸上長距離選手の露出度は高い。高校駅伝から社会人駅伝、さらには地区予選までテレビ放映がある。

今思うと、陸上選手時代は、その感覚が当たり前だった。

秋・冬シーズンが到来すると、毎週のようにテレビで駅伝が放送され、選手の活躍を見ることが出来る。お正月はみんなでテレビを囲み、ニューイヤー駅伝、箱根駅伝を観戦する。「正月の風物詩」と言われるほど人気がある。


トライアスロンを始めて、私はそれまで気付かなかったことに直面した。

自分でスポンサー探しをしている時のこと。ある企業に「あなたの費用対効果はどのくらいですか?」と問われたことがあった。私はその問いに関して、答えられず、そして、自分の存在価値について深く考えることになった。

加えて、トライアスロンというスポーツをどう社会に浸透させていけるかということも重要な課題なのだと気づいた。

分かっていたつもりだが「『ただ夢を追う1人のアスリート』では社会には通用しない」と痛感した。そして現役のうちからセカンドキャリアやアスリートの価値、アスリートができる社会貢献などについて考えはじめた。

幸い、私の場合は引退するまでサポートしてくださる企業があり、選手生活が送れた。自分の夢を応援していただける企業に巡り会えたことは、本当に幸せだったと感じている。

長年の課題とも言われているアスリートのセカンドキャリア。そして、現役アスリートが社会(企業)に貢献する活躍ができる場所も必要だと感じ、今年2月にpuente(プエンテ)という組織を作った。「人と人、夢、企業、地域をつなげる活動をしたい」という思いから、スペイン語で「懸け橋」という意味を持つ名前をつけた。

トライアスロンは魅力を発信するスキームがまだまだ少ない。情報社会を味方に、選手自身が競技普及・発展のために動くことも必要な時代になってくると感じている。

トライアスロン競技で世界を目指すには、正直、時間とお金がかかる。そのためには、アスリート個人の価値はもちろん大切だが、競技の価値を高める必要もあると思う。

そのような思い、考えから、現在チャレンジしていることがある。10月23日に宮崎県で開催された日本トライアスロン選手権を、選手本人に解説してもらいながら視聴するというオンライン企画だ。

大会に出場したメンバー5人に協力を仰ぎ、レース映像とともに、その時の状況や心境を場面ごとに自ら解説を入れ、よりリアルな“実況放送”を視聴者の皆さまにお届けする形だ。

ただレースを観戦するだけではわからない選手の魅力や、トライアスロンの魅力を知ってもらうために考え出した一つの試み。近々YouTubeで配信予定だ。

コロナ禍ということもあり、国内レースも限られる中ではあるが、コロナ禍だからこそ、YouTube生配信という新たなスキームも生まれた。

そこを最大限に活用しながら、今後もトライアスロンをアウトプットできる魅力発信、社会に浸透していく仕組みについて考えていこうと思う。

(加藤友里恵=リオデジャネイロ五輪トライアスロン代表)

puenteが行っているランニングイベントの様子。アスリートとトライアスロン・マラソン愛好者の触れ合いの場を作っています
puenteが行っているランニングイベントの様子。アスリートとトライアスロン・マラソン愛好者の触れ合いの場を作っています