こんにちは、スポーツアンカーの山田幸代です。今回のインタビューは、ラグビートップリーグのキヤノンイーグルスで中心選手として活躍するCTBジェシー・クリエル(Jesse Kriel、26)選手。


ジェシー・クリエル
ジェシー・クリエル

2021年1月から開幕するシーズンに向け、町田のグラウンドでのチーム練習後に話を聞いた。キヤノンは2019年W杯で日本代表として戦ったSO田村優が主将を務め、同じく日本代表のSH田中史朗が加入後、着実に実力を上げてきているチームだ。

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「こんにちは!よろしくお願いします!」。目が合うとすぐ、日本語であいさつをしてくれた。明るく、気さくな26歳という第一印象だ。

クリエルは2015年に初来日し、NTTドコモで1年プレー。いったん南アフリカに戻った後、2019年からキヤノンでプレーするため再び日本に来た。

まずは練習の話から始まった。

彼は言う。キヤノンは練習の質が高い。プレーヤー、スタッフそれぞれが組織をつくり上げている、素晴らしいチームだ。リーダーの田村、田中を中心に、練習中のマインドセット(考え方)や、それぞれの自主性を最大限に引き出す練習ができていると。

リーダーが引っ張り、選手たちが遠慮なくチャレンジできている。そして同じポジションの選手同士も、ライバルでありながら、それ以上にお互いを尊敬し合い、支え合っている。だからこそ、質の高い練習を続けられているのだと思う。そう話した。

続けて、世界を制した南アフリカ代表のクリエルが感じる「日本と南アフリカの選手の違い」を聞いた。

南アフリカの選手たちも本当にすばらしい。マインドセットの方法や、国を背負うという責任感はどこよりも高い。ただ、日本の選手たちはそこが劣っているというより、別のところがたけているのだと感じるという。

クリエルが日本の選手たちをとてもリスペクトしていることは、私に強く伝わってきた。日本語を毎日勉強しているといい、さらに言葉だけでなく日本の文化を同時に学び、積極的にチームメートとコミュニケーションをとっている。その行動から、自分が日本や日本人をリスペクトしているということを表現したい、と語った。

日本では、ミーティングの場で若手がまだまだ話しづらい環境がある。キヤノンではそこを「Speak Up」できるような環境づくりを行って、それぞれの意見を引き出している。そこから若手選手のマインドセットも変わってきている、と話す。

「Speak Up」とは、ただ話すだけでなく、遠慮なく自分の意見を言うことだ。積極的な意思の疎通が相互理解とチーム総合力の向上につながっていることは間違いない。

「マインドセット」という言葉は、どのスポーツにも共通ワードとして出てくる。しかし、日本の選手と海外の選手のマインドセットの意味合いは大きな違いがあると、私はずっと感じてきた。

日本の選手たちと話すマインドセットは、その思考にもっていくまでとても難しそうで、「その思考にたどり着かなければいけない」という義務感すら感じてしまう。しかし海外の選手は、自らが挑戦するために持つべき思考がどのようなものなのかを理解し、気持ち、思考ともにONに入れるまでの時間が短い。そしてポジティブさを感じるのだ。

クリエルの言葉の中で特に印象的だったのは「Challenge Mindset」。

どんな場面でも、チャレンジするマインドセットにしていくことが重要だと話した。彼も自らのマインドセットを世界に向けることで変化し、成長してきた。

すでにトップクラスの選手でありながら、日本の選手をリスペクトし、日本人からも常に学ぼうとするクリエル。計り知れない可能性を感じる。彼は日本の選手から、物事のプロセスをつまらないと感じずに我慢してやり続けることができる忍耐力を学んでいるという。自らの成長を楽しみ、新しいことへ探求心を持ち続けることが、クリエルの人間性を作り上げているのだと確信した。

世界の頂点を知る選手は、人としても一流なのだ。


山田幸代
山田幸代

インタビューの中で、“Challenge"と“Team Mates"という言葉を繰り返し使っていたことがとても印象的だった。

クリエルはチャレンジャーであり続けている。日本でも、南アフリカでも常にチームメートとともに戦い、競争の中でも互いを信頼し合うことの大切さ、支え合うことの重要性を知っている。

個人的な成長を追い求めるだけでなく、組織がいかに機能していくのかということを常に考えて実行する。そこから得られる信頼と期待が、また彼を成長させるという好循環が生まれる。それがクリエルが活躍できる秘訣だ。

「トップリーグ2021」開幕まで2週間あまり。クリエルを擁するキヤノンイーグルスの新たな挑戦が楽しみだ。(プロラクロス選手・スポーツアンカー 山田幸代)

◆キヤノンイーグルス 昨季トップリーグは中断時点で3勝3敗の9位。今季は開幕に向けての練習試合をここまで5試合行い、4勝1敗としている。日本代表のSO田村優が主将を務める。開幕試合は1月17日のリコー戦(駒沢)。