6日まで東京で行われた飛び込みワールドカップで、快挙が達成された。荒井祭里(20=JSS宝塚)の女子高飛び込み銀メダルだ。

ワールドカップで同種目でのメダルは17年ぶり。銀メダルは日本人初となった。決勝5本目を飛び終えた後の表情は、心からあふれる安堵の笑顔だった。

予選前、逃げ出したいほどの緊張が彼女を襲った。

板橋美波(JSS宝塚)と組んで出場した10メートルシンクロでは、思うような演技が出来なかった。その時の悪いイメージがなかなか消えず、個人種目への不安は増すばかり。試合が近づくにつれ、緊張でうまく眠れなくなっていったという。


女子高飛び込み準決勝で演技をする荒井(撮影・菅敏)
女子高飛び込み準決勝で演技をする荒井(撮影・菅敏)

彼女は同種目での東京オリンピック出場はすでに内定していた。

その分、もっと気楽に試合へ臨めるようにも思うが、今大会はオリンピックと同じ会場。この場所で結果を出して、いいイメージでオリンピックを迎えたい、と考えるのも当然だ。しかし、そんな思いがまた自分を苦しめる。それでも、試合は待ってはくれない。始まってしまえば、やるしかない。不安やプレッシャーを抱えたまま、腹をくくって10メートルの台に立った。

しかし、試合が進む中で、彼女の表情は少しずつ自信を取り戻していくように見えた。周りが1本2本と小さなミスを連発。そこで、いかに周りに流されずミスの少ない演技をするかが試された試合展開だった。

彼女を苦しめた不安とは裏腹に、緊張感の中での安定した演技。予選は5位で通過し、次への希望をつないだ。

翌日行われた準決勝と決勝。試合の合間はわずか20分という、ほぼ連続している試合日程が組まれていた。多くの選手にとっては、疲労がたまりやすい日程だ。

しかし、彼女はこれが得意だった。準決勝も、大きなミスをすることなく5位で通過した。

彼女は他選手と比べて難易度は低いが、その分、安定性が武器だ。予選、準決勝、決勝へ進むにつれて、本来の強さを取り戻し、決勝では完璧な演技を披露してくれた。見事、合計330点を超える高得点をたたき出し、最高の笑顔とともに表彰台に登った。オリンピック前の、最後の国際大会。彼女の希望通り、いいイメージでオリンピック本番を迎えられる結果となった。


■「開催してくれてありがとう」

今回、日本からは13選手が参加した。2019年の世界選手権で内定した選手を合わせると、合計9人が東京オリンピック内定を決めた。これは、飛び込み界にとってはかつてない多さだ。

今大会には、強豪国である中国は、ほとんどの種目に出場していなかった。すでにオリンピックの出場枠を持っているからだ。さらには、コロナ禍で参加できなかった国もあった。そんなチャンスも重なった。

しかし分かっていても、目の前にあるチャンスをつかむ事はそう簡単なことではない。このチャンスをものにした選手たちに、心からおめでとうと伝えたい。


銀メダルを持った荒井祭里(左)と筆者
銀メダルを持った荒井祭里(左)と筆者

今なお世界中で感染者が増え続けている新型コロナウイルス。今大会でも、開催の延期や、感染者数が落ち着かない状況に、モチベーションの維持はとても大変だったと思う。しかし、暗雲低迷な時期が長く続いた分、みんな、その気持ちを晴らすかのように素晴らしい演技を披露してくれた。

そして、今大会へは、想像以上に世界各国から多くの選手が集まり、代表選手たちからは「開催してくれて、ありがとう」という声が非常に多かった。状況は国によって違うと思うが、選手たちは、今できる最大限の努力をして大会を迎えたに違いない。

正直、この状況でオリンピックを開催していいものなのか、疑問はある。しかし、オリンピックを経験し、その素晴らしさを知っているからこそ、諦めたくない気持ちもある。

どうか、1日も早く、心からスポーツを楽しめる日が来ることを願っている。

(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)