国際大会に出場する際に、避けては通れないのが時差。現役時代は若かったこともあり、毎回なんとなく乗り越えてきた。しかし、昼間の眠気や体のダルさは完全には無くならず、いつも体調の変化を感じながら試合当日を迎えていた。帯同コーチからは、日本であらかじめ調整する方法も進められたが、日本では日本時間での生活があり難しかった。


2008年北京オリンピック出場時に搭乗した特別機
2008年北京オリンピック出場時に搭乗した特別機

では、時差ボケをなるべく早く解消し、現地の時間にコンディションを合わせるにはどうしたらいいのか。今思えば、現役を引退する最後までずっと課題だったことの1つだ。

現在は、試合前のような緊張やプレッシャーがありながらの渡航は無くなった。旅行などでも、時差ボケはしないに越した事は無いが、過剰なほど意識はしなくなっていた。しかし最近になって、機内誌で「時差ボケ」についての研究の記事が目に入った。

スタンフォード大学医学部精神科の西野精治教授の記事だった。

まず、時差ボケはなぜ起きるのか。それは、「体温変化等の体のリズム」と「睡眠などの生活のリズム」が関係して起きるらしい。人間の体温は昼にかけ上昇し、夜にかけて低下する。このリズムが狂ってしまうことによって倦怠(けんたい)感や不眠といった不調が起こる。そして、驚いたのは、リズムの再同調は1日1時間しか出来ないということだ。そうなると、7時間の時差であれば7日間かかることになる。つまり7日間未満の滞在であれば時差ボケのまま帰国することになるのだ。

私が現役の頃は、国際大会であっても試合開始の3日前に現地入りすることが多かった。そのため、時差ボケを解消する十分な時間は無い。わずか3日でコンディションを整え、ベストパフォーマンスをしなければならないのだ。


ロンドン五輪出場時の空港で
ロンドン五輪出場時の空港で

では、時間がない中でどのようにすれば少しでも時差ボケの影響を減らすことができるのか。

それはとにかく「休養」することだという。現地が昼間だからといって無理に起きているのではなく、集中しなければいけないこと以外の時には、とにかく体を休ませることがパフォーマンスの向上に繋がる。

しかし、時差の関係で眠れない場合もあるだろう。その時は目を閉じ、リラックスして体を休めるだけでも効果はあるという。

あとは、試合前であれば、緊張やプレッシャーで競技のことばかり考えてしまいがちだが、なるべく不安要素になることは考えないようにする。明るく前向きな事を考えることも大切であると西野教授は話していた。

その他にも、機内ではマスクをして口の乾燥を防ぐことや、体を冷やさないようにすること、そして食事にとらわれず眠たくなったら寝ることも、体への負担を減らすために出来ることだろう。休もうとする体の反応に身を任せる事が、時差ボケによる体調不良を回復させる鍵になるのだ。

いま世界を飛び回り活躍しているアスリートや、これから世界の舞台を目指しているアスリートには、ぜひ知ってほしい内容である。私も今後、飛び込み競技のジャッジとして国際大会へ出向く時には、ぜひ実践してみようと思う。(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)