5月5日から7日にかけて、カナダ・モントリオールでは飛び込みのワールドカップが開催された。中国大会に続く2戦目となる今大会は、日本から8人の選手が参加。5種目に出場し、みごと2種目でメダルを獲得した。

ワールドカップ(W杯)モントリオール大会の会場
ワールドカップ(W杯)モントリオール大会の会場

まず1つ目のメダルは、男子3メートルシンクロ板飛び込み。須山晴貴(NSP宇都宮)と荒木侑図(日本水泳振興会)ペアが、この種目では日本初となる銅メダルを獲得した。

2人とも力強い踏み切りと高さのある演技が持ち味。さらに、高難度の技をそろえている。シンクロ種目では、同調性が最も重要視される。演技の成功はもちろん、更に同調してなければ高得点が狙えないのだ。男子は6本の演技の合計点数で競われるが、前半の2本は基礎演技。そのため、よほどの失敗をしない限り点数差はあまり生じない。

上位に入るためには、選択種目(高難度の技)の4本を成功させることが必須となる。

ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子3メートルシンクロ板飛び込みで日本初の銅メダルを獲得した須山晴貴(右から2番目)、荒木侑図(右)組
ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子3メートルシンクロ板飛び込みで日本初の銅メダルを獲得した須山晴貴(右から2番目)、荒木侑図(右)組

この種目に参加したのは10カ国。ハイレベルな戦いが予想される中、日本チームは1本目から安定した演技を披露した。2本目、3本目と順調に点数を伸ばし、最終ラウンドを前にして3位につけていた。

私はこの種目でジャッジに入っていた。会場の盛り上がりからも、接戦であることは容易に理解できた。周りからの緊張感も伝わり、私自身も心臓はバックバク。しかし、状況によって採点が変わってしまうことは絶対にあってはならない。それは毎日行われるジャッジミーティングでも何度も言われていた。平然を装いながらも、とにかく日本チームのベストパフォーマンスを祈り、ジャッジを続けていた。

その時、4位につけていたドイツとの差は2点。ラスト1本の演技によっては、順位が入れ替わってしまう可能性は大いにあった。

日本チームの最終演技は5337D(前逆宙返り1回半3回半ひねり自由型)。難易度3.5の大技だ。決めれば高得点を狙えるが、失敗するリスクも高い。

先に演技をしたドイツは、さらに大技の109c(前宙返り4回半かかえ型)で最後の賭けに出た。難易度は3.8。決めれば高得点だ。しかし、練習では成功していた入水で、大きく水しぶきが上がった。日本のメダルへの可能性が広がる試合展開となった。

期待が高まる中、日本の2人が板の上に登場。心の中で「お願い!」と叫びながら見守った。その期待に応えるかのように、持ち味を生かした素晴らしいパフォーマンスで同時に入水。

会場は大きな拍手と歓声に包まれた。私も内心ではガッツポーズをしながら大興奮!震えそうな指で得点を入力した。日本は、高得点と言える84点を獲得し、銅メダルに輝いた。

ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子3メートルシンクロ板飛び込みの表彰式
ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子3メートルシンクロ板飛び込みの表彰式

試合後「日本での選考会よりは緊張しなかった」と話してくれた2人だが、確かに試合中の表情からも楽しんでいるように見えた。あとは、まだ海外経験の浅い2人だからこその、挑戦者という立場が良かったのかもしれない。いずれにせよ、来年にパリ五輪を控えた今、世界で3位というのは非常に素晴らしい結果だ。7月に福岡で行われる世界選手権では、シンクロ種目は3位までの国にオリンピック出場枠が与えられる。今大会の結果で、その可能性が十分に見えてきた。福岡でもメダル獲得に向けて、若い力を存分に発揮してくれることを楽しみにしている。

もう1つのメダルを獲得したのは、男子高飛び込みに出場した玉井陸斗(JSS宝塚)だ。中国大会の「銅メダル」に続き、今大会では「銀メダル」を獲得した。

ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子高飛び込みで銀メダルを獲得した玉井陸斗
ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子高飛び込みで銀メダルを獲得した玉井陸斗

翼ジャパンカップからの連戦だったにも関わらず、予選は519.85点という自己ベストを更新しての1位通過。疲れを見せるどころか、パワーアップした姿を世界に見せつけた。

絶好調だった玉井は、決勝でも1本目から10点が出る好調ぶり。これまで本人が苦手としていた207B(後ろ宙返り3回半えび型)と307C(前逆宙返り3回半かかえ型)でも9.5点や10点が出る素晴らしい完成度で会場を沸かせた。しかし、3本目の109C(前宙返り4回半かかえ型)で回転が止められずオーバー。ここで点数を伸ばすことが出来なかった。これまで得意としていた技なだけに、この1本の失敗が悔やまれた。しかし、失敗を引きずらないところが彼の強さ。4本目には気持ちを切り替え、最後まで諦めることなく戦い切った。

ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子高飛び込み予選で玉井陸斗は自己ベストで1位通過
ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子高飛び込み予選で玉井陸斗は自己ベストで1位通過

優勝したヤン・ハオ(中国)は、中国大会の覇者。しかし今大会の予選では、3位通過と不調だった。この調子であれば、表彰式で「君が代」が聞けるかもしれないと期待が高まった。しかしそこは、さすが世界王者。次の日の決勝までにはしっかりと修正し、6本中4本で10点の演技を披露。しかも、そのうちの2本は全てのジャッジが10点をつける完ぺきな演技だった。不調だった予選がうそだったかのように、中国大会の得点を上回る580.25点で優勝を飾った。

この試合にも、私はジャッジに入っていた。実は、ジャッジにとって10点を出すことはすごく勇気がいること。しかし10点を付けざるをえないほどの素晴らしい演技に、迷わず10点を出した。最終的には、2位の玉井に66.80点もの差がついていた。ため息が出るほどの圧倒的強さ。彼が飛ぶたびに鳥肌が立った。

銅メダルのネーサン・ゾンボーマリー(カナダ)は中国大会には出場していなかったが、今大会では500点を超えている。そして、惜しくもメダルに届かなかった4位のオレキシー・セレダ(ウクライナ)は、中国大会では518.30点で銀メダルを獲得している。

玉井も、今大会では予選・決勝ともに500点を超えた。

世界で活躍する選手であれば、国内大会では点数は出やすい。しかし、国際大会でのジャッジはとても厳しく、500点を超えられるのは真の実力者のみ。間違いなく玉井もその1人だ。

ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子高飛び込みの表彰式
ワールドカップ(W杯)モントリオール大会男子高飛び込みの表彰式

今後、世界の男子種目でメダルを獲得するには、500点を超えることが1つの目安になるだろう。

まだ16歳の玉井だが、これからは追われる側の選手として世界で戦わなくてはいけない。福岡の世界選手権でも激戦が予想されるが、彼らのハイレベルな戦いに大注目だ。

昨年11月に国際ジャッジを修得し、私にとって今大会がデビュー戦だった。日本がメダルを獲得した2種目ともにジャッジに入っており、最高の瞬間を特等席で見ることができた。しかしながら、選手の人生をも左右する可能性があるジャッジ。1本も見落としてはいけないプレッシャーと責任の重さに、1日の終わりにはヘトヘトだった。それでも貴重な経験をさせていただけたことに本当に感謝である。選手とともに、私もスキルアップできるようこれからも頑張っていきたい。(中川真依=北京、ロンドン五輪飛び込み代表)