東京オリンピック(五輪)開幕まで3カ月を切った25日、東京都に3度目の緊急事態宣言が発出された。


飲食店の休業、時短営業の要請に加え、大型商業施設の営業自粛、大型イベントの無観客開催…。夜の明かりも消える。「東京へは来ないで」と、小池都知事も悲痛。本当に五輪は行われるのだろうか。


選手たちの心は揺れている。24日、広島・廿日市市で行われたトライアスロンのアジア選手権、女子のエース上田藍はレース後「もし、行われるのなら」と前置きして、4度目の五輪となる東京大会を目指す思いを口にした。常にポジティブ思考の藍ちゃんでさえ、不安は隠せないのだ。


大会は選手や関係者を隔離し、外部との接触を完全に絶って行われる。すでに一部の国でワクチン接種の効果が出ているように、3カ月後には世界的なパンデミックも多少は収束に向かっているように思う。選手への接種も進むはず。観客制限は必要だろうが、徹底した対策の上での開催は決して不可能ではない。


ただ、問題は3カ月後だけではない。五輪に出場するための予選が今、行われているのだ。昨年3月に延期が決まった時、全参加選手のうち出場を決めているのは57%だけだった。残り43%は、出場資格を得るためのランキングや予選大会で決まる。IOCが定める6月29日までに予選を終えなければならないのだ。


問題になるのは、国をまたぐ移動が自由にできないこと。ワクチン接種が進んで制限が緩和されつつある国がある一方、感染拡大で危機的状況の国もある。国際大会開催は難しく、規制も厳しい。本大会同様に、予選大会も「安心安全」でなければならない。


予選不参加で、五輪出場を断念する事態も起きている。オーストラリア水泳連盟は5月1日から東京アクアティックセンターで行われる飛び込みの世界最終予選出場を辞退した。「安全ではない」と判断したからだ。本番でのメダル獲得を目指していた選手も、五輪への道を閉ざされた。


陸上でも、五輪出場権のかかる世界リレー大会(5月・ポーランド)への参加辞退が相次ぐ。米国、ジャマイカ、オーストラリアなどに続き、カナダも「選手の健康と安全を考え」派遣を断念。本番への影響が懸念されている。


それぞれの国の感染状況や渡航制限などによって、不公平が生まれる。予選の段階で出場を断念せざるを得ない選手もいる。隔離生活や毎日のPCR検査など負担も大きい。それでも、アスリートは戦っている。


レスリングのアジア予選(カザフスタン)に出場した日本チームは帰国後、選手7人、役員1人の新型コロナ感染が判明した。会場と宿舎だけを往復し、外部からは隔離された「バブル方式」で大会を行ってもリスクはある。それを覚悟しながら、選手は五輪出場権を獲得しにいくのだ。


3カ月後の東京五輪について「開催か」「中止か」が叫ばれる中、各競技の予選は粛々と行われている。すでに出場を決めている選手にとって開催されるかどうかは大きな問題だが、出場を決めていない多くの選手にとっては出場権獲得こそが最大の目標になる。


各競技のよって違うが、予選期間は最大でも残り2カ月。東京五輪は、すでに始まっている。見えないゴール(東京五輪)に向かって、見えない敵(新型コロナ)とも戦うアスリートたち。3カ月後、どんな形であっても彼らのために東京五輪があればと願う。

五輪のモニュメント。後方は新国立競技場(2020年3月20日撮影)
五輪のモニュメント。後方は新国立競技場(2020年3月20日撮影)