あんなに笑っている姿は、初めて見た。競泳日本選手権最終日の8日。女子200メートル平泳ぎで、渡部香生子(21=早大)が2年ぶりの代表入りを決めた。標準記録を突破する2分22秒90で2位に入った。取材エリアでの第一声から「本当によかったです。(標準記録の)タイムを切れるか、正直不安なところもあった。レースが終わって、久しぶりに『やった』という気持ちでうれしかった」と弾むような声で言った。

 いわずと知れた天才スイマー。12年ロンドン五輪に15歳で出場。15年世界選手権で金メダルをとって、16年リオデジャネイロ五輪の優勝候補に浮上。だが心身のバランスを崩して、ロンドンと同じく五輪2大会連続で決勝を逃した。リオ五輪後に水泳担当になった記者は、辛そうな顔しか見たことがなかった。昨年はけがもあって、6年ぶりに日本代表の座を逃している。五輪舞台での挫折と、復調できない苦しさ。笑顔も控えめなものしか、見たことしかなかった。

 3日前の100メートルでは標準記録をクリアしたが、3位だった。2位鈴木聡美とわずか0秒08差で代表の座を逃した。取材エリアでは悔し涙を流した。もともと日本選手権は100メートル優先で練習していた。指先で涙をぬぐう姿を見て、復活は道半ばだと感じていた。

 「100メートルを終わった後は、200メートルを棄権したいくらい心が折れた。でも会う人、会う人に『頑張って、応援しているよ』と言われて、それもうれしいことだった。『良くても、悪くてもまた次に頑張ればいい』と思った」。

 開き直って臨んだ200メートル。持ち前の大きな泳ぎでぐいぐい進んで、優勝した青木玲に1秒05差でフィニッシュした。自身が持つ自己ベストにちょうど2秒に及ばなかったが「やっぱり、自分は200メートルなんだなと思った」と口にした。

 渡辺は、夏のパンパシフィック選手権とジャカルタ・アジア大会の日本代表に名を連ねた。過去2度の五輪は思うような泳ぎができなかった。出場すれば3度目の東京五輪は順位も大切だが、何よりも納得のレースをすることを求めている。「久しぶりの代表なので、ワクワクする気持ちがある。東京に向けて経験値をつけたい」と、21歳は目を輝かせた。【益田一弘】

 ◆益田一弘(ますだ・かずひろ)00年入社の42歳。広島市出身。大学時代はボクシング部。13年1月から五輪担当で主に陸上を取材。16年11月から水泳を担当。今年2月の平昌五輪ではカーリング、フィギュアスケートなどを取材。