スポーツの暗いニュースが全国の関心を集める中で、サッカーのJリーグから胸が躍る話題が飛び込んできた。スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(34)が、推定年俸32億5000万円でJ1神戸に加入。5月26日には本拠地のノエビアスタジアム神戸で、歓迎イベントも行われた。

 この話題に関連し、ラグビーファンでこう思った人も少なくないだろう。

 「ラグビーの神戸にも、世界的スーパースターが来るのになあ…」

 その選手こそが元ニュージーランド代表「オールブラックス(ABs)」のSOダン・カーター(36)。フランス1部ラシン92からトップリーグの神戸製鋼入りが17年11月に発表され、18年7月からチームへと合流予定だ。

日本代表対ニュージーランド代表 日本代表戦に臨むニュージーランド代表SOダン・カーター(撮影・小沢裕)
日本代表対ニュージーランド代表 日本代表戦に臨むニュージーランド代表SOダン・カーター(撮影・小沢裕)

 実績を少しばかり並べてみる。カーターは03年にABsデビューを果たし、112試合に出場。11年、15年のW杯2連覇に中心選手として貢献(11年はケガで本戦は欠場)し、ワールドラグビーの年間最優秀選手賞も3度受賞した。ラグビー界における実力、知名度は、サッカー界のイニエスタに負けない正真正銘のスター選手だ。

 では、カーターの何がすごいのか。5月31日、神戸市内のグラウンドで185センチ、98キロのジェントルマンを“直撃”した。神戸製鋼BKのアダム・アシュリークーパー(34)。彼はとても品のあるあごひげをさすりながら、丁寧に握手をし、質問に答えてくれた。

「神戸製鋼の練習後に笑顔を見せるBKアシュリークーパー(撮影・松本航)=2018年5月31日、神戸市内」
「神戸製鋼の練習後に笑顔を見せるBKアシュリークーパー(撮影・松本航)=2018年5月31日、神戸市内」

 -ダン・カーターはどんな選手ですか

 「スマート(賢い)な選手だね。完結した選手だと思います。タックルもできるし、ランニングコースもいいし、パススキルもある。キックもうまい。全てが完結しているけれど、何が一番すごいかというと、スマートなところだね」

 要約すれば「完璧で、さらに賢い」。ラグビー好きであれば、誰もがそのプレーを見たことがあるだろう。SOはBK(バックス)のライン攻撃を引っ張る役割となる背番号10。パス、キック、ランのスキルに、状況判断も求められる司令塔だ。誰もが知る名前を挙げれば、元日本代表の平尾誠二氏らも、このポジションで多くのファンを魅了した。

 カーターについて証言してくれたアシュリークーパーは、昨季に神戸製鋼入り。オーストラリア代表「ワラビーズ」で116キャップを誇り、15年W杯イングランド大会の決勝戦にも出場した。こちらも言わずと知れた世界的スターだ。8万125人が集ったW杯決勝でカーターは優勝するABsの背番号10、アシュリークーパーはワラビーズのWTBとして、背番号14でフル出場を果たしている。そのアシュリークーパーへ、さらに質問を投げかけてみた。

 -カーターが来ると聞いた時は、どういう気持ちでしたか

 「自分はこれまで(カーターとは)相手としてプレーしてきたので、興奮しているよ。やっと相手じゃなく、同じチームメートとしてプレーできる。すごくうれしいことだし、楽しみ。同じユニホームを着てプレーできるのが、本当に楽しみだよ」

 -結構、話したりもするのですか

 「(神戸製鋼SHで元ABsの)アンディー(エリス)の方がしゃべっていると思うけれど、僕もこれまで一緒の試合で何回もプレーしているから、よく試合後とかに話をするよ。神戸製鋼に来るって聞いてから、メールなんかもしています」

 神戸製鋼は今季からウェイン・スミス氏(61)が総監督に就任。ABsのアシスタントコーチとしてカーターらを指導し、W杯2連覇へ導いた名指導者だ。チーム関係者によると、カーターが日本行きを決断したのも、同総監督の存在が大きかったという。すでに4月9日から練習を指揮。パス回しの際の走るコースの徹底など、基礎を大切にする。アシュリークーパーも、そんな新しい空気を楽しむ姿勢がある。

「神戸製鋼の練習で仲間と笑顔を見せるBKアシュリークーパー(中央)(撮影・松本航)=2018年5月31日、神戸市内」
「神戸製鋼の練習で仲間と笑顔を見せるBKアシュリークーパー(中央)(撮影・松本航)=2018年5月31日、神戸市内」

 「私たちの一番の課題はメンタル。どれだけ緊急的な対応ができるか、です。去年もみんなポテンシャルはあった。チャンスも作れたのに、フィニッシュの精度がトップ2(サントリー、パナソニック)との違いだった。今年はそこの精度に対して、お互いにすごく厳しく言い合っています」

 そんな変わりつつあるチームに、カーターがやってくる。日本を愛するアシュリークーパーはニヤリと笑い、世界的スターの神戸製鋼での成功を保証した。

 「焼き肉、焼き鳥を食べながら、生ビールを飲むのが待ち切れないですね。絶対に彼も、日本のことが好きになると思います」

 加えてチームには11年、15年と2大会連続でW杯日本代表のSH日和佐篤(31)、スーパーラグビーの日本チーム「サンウルブズ」で驚異のゴール成功率を誇るSOヘイデン・パーカー(27)ら手厚い補強が施された。「実力者の結集=勝利」と単純ではないだろうが、スミス総監督を筆頭に、15季ぶりの優勝へ役者はそろった。18年の「フットボール界」は、神戸が熱くなりそうだ。【松本航】


 ◆松本航(まつもと・わたる)1991年(平3)3月17日、兵庫・宝塚市生まれ。兵庫・武庫荘総合高、大体大とラグビー部に所属。13年10月に大阪本社へ入社し、プロ野球阪神担当。15年11月からラグビーや西日本の五輪競技を担当。