16年ぶりの日本開催となった水泳パンパシフィック選手権。表彰式で、新しい試みが行われる。金メダリストに、名前の刺しゅうが入った黒いチャンピオンジャージーが贈られている。実は、決勝から表彰式まで15分程度しかない。その間に、自分の名前が刺しゅうされるプロの技に、選手たちも驚いている。

パンパシの優勝者に贈られるチャンピンジャージー。左胸に種目、右胸に名前の刺繍が入る(撮影・益田一弘)
パンパシの優勝者に贈られるチャンピンジャージー。左胸に種目、右胸に名前の刺繍が入る(撮影・益田一弘)

 チャンピオンジャージーは、大会ゴールドパートナーの「アリーナ」が発案した。ヒントになったのは自転車ツール・ド・フランスで総合1位に贈られる黄色い「マイヨジョーヌ」や、ゴルフ・マスターズ選手権の優勝者に贈られるグリーンジャケット。それにプラスして、優勝者の刺しゅうを入れることにした。同社の市之瀬潤さんは「これまで種目が入った記念品などはあったが、名前の刺しゅうが入るのは珍しいと思います」。野球、サッカーでは代表ジャージーに名前を入れているが、水泳ではあまり習慣がなかったという。「ここ半年ぐらいでジャージーに選手の名前を入れることに興味を持ってもらえるようになりました」。

パンパシの優勝者に贈られるチャンピンジャージー。左胸に種目、右胸に名前の刺繍が入る(撮影・益田一弘)
パンパシの優勝者に贈られるチャンピンジャージー。左胸に種目、右胸に名前の刺繍が入る(撮影・益田一弘)

 わずか15分で刺しゅうを完成させるのは、日本のプロの技がある。横振りのミシンを使って文字や柄を作り上げる職人である「横振り師」。株式会社ヨコブリシの広野政彰統括本部課長が、会場内でミシンを操っている。決勝レースの結果報告を受けて、刺しゅうをスタート。わずか2~3分で完成する。機械の場合は、データを打ち込む必要があるため10分程度かかるという。機械よりも早い「横振り師」の存在がこのアイデアを実現させた。

チャンピンジャージーに名前の刺しゅうを入れている広野さん(撮影・益田一弘)
チャンピンジャージーに名前の刺しゅうを入れている広野さん(撮影・益田一弘)

 海外勢の反応も上々だ。大会第1日は、刺しゅうに気がつかないで、ジャージーに対する興味が薄い選手もいたが、第2日以降はこぞって持ち帰るようになったという。ある国のコーチ陣は刺しゅうに喜んで「名前を入れてくれ。これも、これも」と喜んだという。実は記者もバックのベルトに刺しゅうを入れてもらった。筆記体で「Masuda」と入れてもらって、わずか1分弱だった。日本の技術を披露するという意味でも「チャンピンジャージー」がひと役買っている。【益田一弘】

バックのベルトに刺しゅうをしてもらうと、わずか1分弱だった(撮影・益田一弘)
バックのベルトに刺しゅうをしてもらうと、わずか1分弱だった(撮影・益田一弘)