3位決定戦に勝って歓喜の涙を流す川井友(撮影・阿部健吾)
3位決定戦に勝って歓喜の涙を流す川井友(撮影・阿部健吾)

リオデジャネイロ五輪レスリング女子63キロ級金メダリストの川井梨紗子(24)が開催中の世界選手権優勝で東京五輪の代表に内定した。妹の友香子(22)も62キロ級3位で代表内定。「姉妹で五輪」をスタンドで見守ったのは、30年前の89年世界選手権日本代表の母初江さん(49)だった。

「今回は姉妹そろっての五輪出場が、川井家としての目標だから」。世界選手権に出発する前、初江さんは言い切った。「リオは梨紗子の五輪だったけれど、今度は2人の五輪」と話した。

正反対の性格の姉妹だ。「梨紗子は負けず嫌いで、何でもストレートに言う。友香子は読書や手芸が好きで、じっと考えるタイプだった」と初江さん。ともにレスリングを始めたのは小2だが「最初、友香子はやらないと思っていたし、始めてからもいつ辞めるかと思っていた」と話した。

姉を追って至学館高に入学した。ケンカをすると、すぐに2人から連絡が入った。「つまらないことでケンカしていた。でも梨紗子がいて友香子も心強かっただろうし、梨紗子も妹がいることで頑張れたと思う」と、高校生から離れて暮らす2人の成長を喜んだ。

レスリングを始める前の川井3姉妹。左から6歳の梨紗子、3歳の友香子、2歳の優梨子
レスリングを始める前の川井3姉妹。左から6歳の梨紗子、3歳の友香子、2歳の優梨子

2人に教えたのは「攻めることの大切さ」。金沢クラブで指導していた初江さんは「特に2人に言っていたわけではなく、私の口癖が『攻めなければレスリングじゃない』だった」。父の孝人さんも元選手、がむしゃらに前に出るスタイルでグレコの学生王者になった。「攻めのレスリング」は両親から受け継いだ。

ただ、友香子にだけ言っていたこともある。思慮深いだけに、悪いことも考える。弱気な言葉をはくことも多かった。「自分の言葉は自分の耳にも入る。弱気な言葉が弱気にさせる。思っても口には出すな、って何度も言いました」。初江さんはポジティブなことを口にするように言った。

今夏、世界選手権代表に向かう姉妹と撮った家族写真。左から友香子、父孝人さん、優梨子さん、梨紗子、母初江さん
今夏、世界選手権代表に向かう姉妹と撮った家族写真。左から友香子、父孝人さん、優梨子さん、梨紗子、母初江さん

当初は「2人そろって五輪に」という思いはなかった。リオデジャネイロ五輪に梨紗子のパートナーとして帯同した友香子は、姉の金メダル獲得直後「私も出たい」と言ったという。その日から東京五輪は「梨紗子の連覇」の大会ではなく「2人の大会」になった。

初江さん自身も目指していたのは五輪出場だった。しかし、実際に女子が五輪種目となったのは04年アテネ大会から。自分の夢がかなわなかったからこそ、五輪への思いは強い。「リオは終わったこと。今は東京だけを考えている」。まずは「姉妹で出場出場」という目標を達成した。次は「姉妹で金」。梨紗子と友香子、そして初江さんの目は来年の東京に向く。【荻島弘一】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)