本格的なスポーツ選手の初取材は芸能担当時代だった。取材対象者は当時00年シドニー柔道女子48キロ級金メダリストだった谷亮子さん(45)。04年正月にハワイで休暇を過ごす芸能人取材をしていた時だった。

ホノルル空港に到着した芸能人に話を聞いている最中、上司の芸能デスクから電話が入った。「谷亮子がホノルル入りして強化合宿を行うらしいから、取材に行って。ちょうどホノルルにいるんだから」と命じられた。ルールもほぼ分からない芸能記者の取材に対し、まともに受け答えしてもらえるのか。不安を抱えながら練習場所に向かった。

ホノルル市内の練習場所に向かうと、スポーツ紙記者は柔道担当ではなく、毎日、ホノルル空港で顔を合わせていた芸能担当ばかりだった。誰もが「何を聞いていいのか」と戸惑っていた。谷さんについて一夜漬けで勉強したが、正直練習を見ていても内容はほぼ分からなかった。

恥ずかしながら、当時谷さんについて把握していたことは主に2つだった。2連覇がかかった04年アテネ五輪開催年の初始動という大事な合宿だということ。1カ月前に結婚式を挙げたこと。芸能記者集団は「出発前、だんな様からはどんな言葉をかけられましたか」「結婚は柔道に影響しないですか」「(旧姓の)『田村』に続き、『谷』でも金メダルですか」と、技術的な部分以外の質問に終始した。谷さんは見知らぬド素人記者の質問にも、嫌がらず丁寧に答えてくれた。

芸能時代、何度も取材した故・ジャニー喜多川氏はSMAPや嵐からデビュー前の小学生まで平等に接すると同時に、記者にもいつも敬語で丁寧に接してくださった。長嶋茂雄氏や三浦知良選手といった方々も、初めて取材する記者でも丁寧に対応すると聞く。

分野に関係なく、誰にでも分け隔てなく接する。初の本格的なスポーツ選手取材で、大物やスターと呼ばれる人たちの共通点を実感できたのは、貴重な体験だった。【近藤由美子】(ニッカンスポーツ・コム/スポーツコラム「We Love Sports」)