「ラグビーは人生の一部」。

東海大大阪仰星の湯浅大智監督(41)は、広い視野を持って競技に取り組んでほしいと願っている。

花園はラガーマンにとって特別な場所で、特に3年生にとっては3年間の集大成の大会とされる。だが、長い人生。楕円(だえん)球を追いかけた青春は、大人になるとほんの一部になるものだ。

「そんなに小さい枠の中で集大成って言わないで。いつまでも終わりない」

花園での一戦も「通過点」とし、大会期間中でも「ここ(花園)でしか経験できないことで伸びる部分がある」と繰り返して選手に成長を求めていた。

22年1月3日、報徳学園に敗れた東海大大阪仰星フィフティーンはグラウンドに一礼して引き揚げる
22年1月3日、報徳学園に敗れた東海大大阪仰星フィフティーンはグラウンドに一礼して引き揚げる

ラグビーをやって成長するのはラグビーだけ-。高校生活に限定しても、ラグビーを「一部」に据え、何事にも一生懸命向き合える土台を作れるよう指導している。

そんな教育熱心な指揮官は、常に1歩引いた位置に立つ。

近年、チームには「監督を疑え」というムードが漂う。近藤翔耶元主将(現・東海大2年)が後輩に残した言葉だ。言葉どおり、選手は言われたことをうのみにせず、自分で考えることを習慣づけている。

「こっちがどれだけ教えても、単純な知識の習得に終わってしまう。知識が知恵に変わる過程の中で一番大事なのが思考すること」

花園でも戦略しか伝えず、戦術は選手に考えさせた。常に思考するくせがついているため、修正力は抜群。これは、チームの強みのひとつでもある。

23年1月1日、国学院栃木戦の後半、トライを奪う東海大大阪仰星の吉田琉生
23年1月1日、国学院栃木戦の後半、トライを奪う東海大大阪仰星の吉田琉生

3回戦の国学院栃木戦。元日に迎えた前回大会の決勝カードで、その片りんが見えた。

前半を3-7で折り返したハーフタイム。湯浅監督が修正点を提示すると、選手は首を縦に振らず考え込んだ。選手自ら思考し納得してから、ようやくうなずく。結果としてその戦術がはまり、22-7の逆転勝利。「たまには信じてほしいな。疑われっぱなしです」。指揮官は苦笑いを浮かべたが、その自立心は湯浅イズムが浸透している証拠だった。

そんな指揮官が試合中に口にするのは「丁寧にいこう!」という言葉。昨秋からのチームのテーマだ。力が拮抗(きっこう)する相手とぶつかると、雑な1つのプレーで勝敗が分かれる。ボールのリリース後や、タックル後など、結末を丁寧にすることを意識づけてきた。広い花園の第1グラウンドでも、スタンドの最上層まで届くりりしい声。監督というポジションで、一緒に戦い続けた。

前回大会王者。快調に2連覇へ向けて進んだが、準々決勝で準優勝した報徳学園(兵庫)の前に散った。厳しい結果を突きつけられたが、フィフティーンは決して花園を去らなかった。準決勝、決勝戦をスタンドから熱心に見入る背中。悔しさをにじませながらも、選手は次に向けて歩みを進めていた。【竹本穂乃加】

◆竹本穂乃加(たけもと・ほのか)1999年(平11)9月8日、大阪・泉大津市生まれ。明治大卒。22年4月に入社して、5月に報道部配属。スポーツや芸能を取材。