ノーシードの天理(奈良)がシード校常翔学園(大阪第3)との関西対決を5-3で制し、3回戦に駒を進めた。前半29分にWTB小川大地(3年)のトライで逆転。2点差を守り抜いた。第3グラウンドには5000人が集まり、大会本部はスタンドに入りきれない観客をグラウンドレベルに誘導する史上初の対応を取った。

 ゴールラインまで残り22メートル。左隅でパスを受けた小川は「みんなが頑張ってくれた。行ったる!」と責任を背負った。タッチラインまではわずか3メートル。それでも内側からのタックルを左に交わし、続けざまに来た相手FBは内、外のステップで華麗に抜き去った。「体が反応してくれた。うれしかったです」。前半29分。3点ビハインドでの逆転トライが、仲間を16強に導いた。

 異様な空気でも、天理スタイルは不変だった。2回戦屈指の好カードを見ようと、客席は階段までファンで埋まる異常事態。大会本部は陸上トラックギリギリまで観衆を誘導する、史上初の対応を取った。大盛り上がりの5000人を酔わせたのは、やりのようなタックルだ。1人の交代も使わない緊迫感の中で、前半11分の失点後はシャットアウト。唯一の笑顔はノーサイドの瞬間だけだった。

 殊勲の小川は日々の練習後、1対1を磨き上げた。長い時は約1時間をかけ、FB栢本(かやもと)と真剣勝負する。横のスペースは5~15メートル。何度も抜かれ、やり返した。「好きなもの同士でやっているだけですよ」。地道な努力が実を結んだ。シード校撃破に松隈監督も「うちも1年間やって、弱いとは思っていないですよ」とプライドを見せた。

 念願の年越しで、元日は深谷(埼玉)とベスト8を争う。小川は「目の前のことを一生懸命やります」と気を引き締め直した。実力の証明は、まだ序章に過ぎない。【松本航】