北島康介選手(33=日本コカ・コーラ)は昨日(4日)の100メートル平泳ぎ準決勝の後、目が眠そうだった。これは悪いことじゃなくて、力を出し切ったあとはそうなるんです。準決勝で出し切るくらいじゃないと世界では戦えない、ということを分かっているから、あんなレースをしたんだと思います。

 決勝までにどうやって疲労を抜くのか。これが私にとって最大のポイントでした。30歳を過ぎてどうケアしていけばいいのか。アスリートとしての興味がありました。

 決勝は派遣標準記録を切れず2位。結果だけみると悪い部分ばかりが取り上げられそうですが、泳ぎはすごく良かった。前半16、後半17ストローク。大きな泳ぎができていた。1位の小関選手は後半21ストロークです。ただラスト25メートルで進めなかった。疲労が完全に抜けていなかったのかもしれません。

 1人で考え過ぎたのでしょうか。五輪でも見ましたが、北島選手はレース直前、「ゾーン」に入ると誰も話し掛けられない空気になります。平井コーチでさえ遠慮がちになる。そこまで自ら逆算して積み上げたパワーを一気に爆発させるために。ただ、この最後の五輪挑戦、もう少し甘えてもいいんじゃないでしょうか。コーチや関係者や周囲の人も使えるだけ使って、200メートルのレースまで、いい意味でわがままに調整してほしい。

 北島選手は今も私たちのあこがれの選手です。これほど愛されている水泳選手はいません。ゴールした瞬間、会場の(おそらくテレビの前の人も)全員が同じ気持ちになったと思います。200メートルは、応援する人たちのパワーも受け止めて、全力を出し切ってほしいと思います。(伊藤華英=北京、ロンドン五輪代表)

 ◆伊藤華英(いとう・はなえ)1985年1月18日、埼玉県生まれ。00年日本選手権に15歳で初出場。01年世界選手権で初代表入り。08年北京五輪で背泳ぎ2種目出場、12年ロンドン五輪は自由形リレー2種目出場。12年秋に現役引退。順大大学院博士後期課程。173センチ。