全国高校総体4強の優勝候補・福島南は延長戦の末、洛南(京都)に60-62と競り負けて初戦敗退。U-19日本代表候補のエース水野幹太主将(3年)は16得点を挙げたが、延長終了直前にファウル5つで退場した。同じく総体4強の山形南も正智深谷(埼玉)に65-79で敗れた。東北勢男子は2回戦ですべて姿を消した。1県1校制に移行した、90年の第21回大会以降では史上初めて。

 天国と地獄を見た。1点を追う延長終了残り3秒1。水野はゴール前へ強引に攻める。しかし、5つ目のファウルを取られてしまった。その瞬間、水野は床に崩れ落ちた。涙をこらえきれなかった。「もっと周りを信じればよかった」。消えそうな声だった。大黒柱を失ったチームは巻き返せず、敗れた。

 だが、誰も水野を責めはしない。第1クオーター(Q)から両チーム1歩も引かない展開。試合が動いたのは第4Q中盤だった。水野と同じくU-19日本代表候補の洛南・津屋一球(3年)を中心に得点を奪われ、最大12点差まで開いた。しかし水野がシュートを入れ続けて、延長戦に入った。

 仲間をプレーで鼓舞し続けた姿に、父でもある慎也コーチ(46)は言う。「勝たなきゃいけない気持ちが強い。(退場した)あの場面も、そうです」。学校でもスポーツ大会の団長を務めた責任感の強い男。あの涙のファウルは、主将として勝利を追求した結果といえる。何よりも、全国の舞台へ導いてくれたことを、父は感謝している。「親としてコーチとしても、こういう大会に連れてきてもらった。よく頑張ってくれたと思います」と、息子にエールを送った。

 水野は、父とわかり合えない時期もあったという。父の指導は厳しいものだった。水野は「(自身の)プライドが高く、何でこうなのだろう」と、常に疑問を抱いてきた。だが、今年になってから結果が出てきて、ようやくすべてを受け入れることができた。敗戦した今、思うことがある。「(父の指導を)素直に聞いていれば、もっといい選手になれたかも知れない。父を日本一にさせてあげたかった」。だが、もう十分親孝行した。取材記者の1人が父からの感謝の気持ちを伝えると、息子はまた涙を流した。【秋吉裕介】

 ◆東北勢男子の2回戦で全校敗退 1県1校制となった90年以降では初めて。89年以前には第3回大会の73年に能代工(秋田)が2戦目で敗退しているが、当時の出場は16校で、1回戦を勝ち上がるとベスト8入りとなった。能代工は大会最多の20度の優勝を誇り、昨年まで3年連続して明成(宮城)が制覇するなど、東北勢は上位進出の常連地区になっていた。