「このチームは僕の財産です。悔いの残る結果となったけど、幸せな時間でした」。桐蔭学園(神奈川)のNO8山本龍亮主将(3年)は準決勝敗退後、後輩や保護者らを前にこう言った。こぼれ落ちる涙が抑えきれず、青空を見上げるしかなかった。

 前大会決勝で敗れた因縁の東海大仰星(大阪第1)。前半は7点リードして折り返したが、後半は平均体重96・8キロのFW陣とスピードあるBK陣に大苦戦した。後半26分、ロック高橋が執念のトライを決めたが力尽きた。

 先輩たちのリベンジでもあった。しかし、1年前の花園のグラウンドに山本の姿はなかった。1年からレギュラーだったが、前大会は左足首脱臼のけがでスタンドにいた。同級生6人を含む選手に、声がかれるぐらいの大声援を送った。その時できる、精いっぱいの“プレー”だった。

 新チームになり、山本が主将に任命された。同校では毎年、チームテーマを決めている。山本は協議の上、「これまでの先輩が築き上げた桐蔭学園の名を全国にとどろかせよう」との思いを込めて「轟く」に決めた。前大会の主将斉藤直人(現早大1年)らのようなスター選手が不在で、今大会は「総合力」で戦うしかなく、山本の“改革”が始まった。レギュラーや控えは関係なく、下級生が試合で力を発揮できるように3年生が積極的に荷物運びやサポートなどに回った。主将自ら、ボール拾いや荷物の片付けも行った。裏方を経験したからこその策で、チーム101人がまとまった。

 今大会3回戦の新潟工戦では、2年生が8人先発出場した。毎試合、後半の「切り札」として出場したSH小西(1年)も思い切ったプレーができた。山本は「つらいこともあったけど、チーム全員でいろいろなことを乗り越えて、ここまで来ることができた。後輩には『1ミス=1トライ』と言い聞かせて、今日みたいな悔しい思いをしてほしくない。いつかはきっと…。後輩たちがやってくれると信じています」と、言葉に詰まりながら後輩たちに悲願の単独優勝を託した。

 藤原監督も「最後までけが人が多くて悩みましたが、3年生を中心にここまで戦えた部分は大きい。強いて言えば、もう1つ上の舞台を踏ませたかった」と唇をかんだ。

 山本は今春から父竜生さんも活躍した明大へ進学する。この日、スタンドで応援した竜生さんは「僕も踏み入れることが出来なかった花園で精いっぱいやってくれた。ここからがまた新たなスタート。この日の涙を忘れずに、ラグビーを頑張ってほしい」と感慨深く語った。

 結果は3位。先発15人だけでなく、毎試合、選手を入れ替えて登録選手25人で戦ってきた。「全員ラグビー」の桐蔭学園。その名はきっと全国にとどろいたはずだ。