「阿部時代」の幕開けだ。20年東京五輪のホープで初出場の男子66キロ級阿部一二三(20=日体大)が金メダルに輝いた。6試合中5試合で一本勝ちし、世界に圧倒的な存在感を示した。強さの背景には、一貫した柔道哲学があった。女子52キロ級決勝は日本人対決となり、志々目愛(23)が角田夏実(25=ともに了徳寺学園職)に勝利した。日本勢は第1日に続く、男女アベック金メダルで史上初めて軽量級全4階級を制した。

 阿部が会場を熱狂の渦に巻き込んだ。2大会連続2位のプリャエフ(ロシア)との決勝は2分33秒、豪快な右袖釣り込み腰で投げ倒した。日本勢の強さのあまり、ブーイングを飛ばす観衆がいる中、相手を破壊するかのような投げ技を武器に、6試合中5度の一本勝ちで拍手喝采を浴びた。「自分の柔道を貫いて、それを試合で出すだけと考えて臨んだ。66キロ級は自分が引っ張る」。誇らしげに新時代の到来を強調した。

 兵庫・神港学園高時代から攻撃的な柔道スタイルは変わらない。リオデジャネイロ五輪代表も狙っていたが、調子の波があって落選。「気持ちで負けず、技術を高める」。この思いを胸に、20年東京五輪で金メダルを獲得すると公言し、臨んだ初の世界選手権だった。警戒されることは想定済み。投げて勝つため、海外勢に対して右組みから繰り出す、左投げの「逆技」に取り組んでいた。

 2連覇した4月の選抜体重別選手権以来約5カ月ぶりの実戦だった。あえて国際大会に出場せず、初出場の大舞台で輝くためにあえて練習漬けを選んだ。「勝つために何をすべきかということを常に考えている。それは今も昔も変わらない。今は技術を磨くことが必要。自分を信じる、が僕の哲学」。他の日本代表が国際大会で経験を積む中、独自の道で頂点に立った。

 今年は3年後への「第1章」と位置づける。「何をされても絶対に負けない強さを身に付けたい」。風格すら漂う20歳は、名前の由来の通り、一歩、二歩、三歩と着実に前へ進む。

 ◇男子66キロ級決勝

 阿部(袖釣り込み腰、2分33秒)プリャエフ

 ◇女子52キロ級決勝

 志々目(内股、2分29秒)角田

 ◆阿部一二三(あべ・ひふみ)1997年(平9)8月9日、兵庫県生まれ。6歳から柔道を始める。兵庫・神港学園高2年の時、17歳2カ月の史上最年少で講道館杯を制覇。16年グランドスラム(GS)東京、17年GSパリ優勝。世界ランキング4位。得意技は背負い投げ。尊敬する人は野村忠宏。兵庫・夙川学院高2年の妹詩(うた)は17年グランプリ大会(ドイツ)52キロ級優勝。168センチ。