20年東京五輪の空手競技会場、日本武道館が沸き返った。「ヨッシャーーッ!」。植草歩(25=高栄警備保障)が勝利の雄たけびを上げる。女子個人組手の準決勝。斉藤綾夏(21=近大)に先手を許し、追いついたが突き放された。1-2で審判の待てが入った。残り1秒。そこから世界女王がよみがえった。

 「何となく、ひらめいて出しました。突きの1点では勝てないので…」。自然に出た右の上段回し蹴りが決まった。一挙3点。試合終了と同時に4-2の奇跡の勝利をもぎ取った。決勝でも母校・帝京大の後輩、宮原美穂(21)に先制されながら2-1としぶとく勝ち切り、3連覇を達成した。

 表彰式を終えて報道陣に囲まれると、“歩スマイル”満開で言葉をはずませた。「今日、私持ってましたね。いい試合はできませんでしたが、初めて観客を沸かせることができました。私の蹴り、ホント、珍しいんですよ」。9日の第1日に千葉のチームリーダーとして団体組手を制した際、「明日は会場の子どもたちや空手をあまり知らない方々に感動を与えられる試合をしたいです」と話していた。ところが初戦は3-0も、その後は1-1の先制得点勝利、1-0と不完全燃焼が続いていた。そこから連続逆転で頂点にこぎつけた。

 昨年の世界選手権68キロ超級を制し、今年は世界空手連盟主催のプレミアリーグで年間王者にもなった。同級の世界ランキング1位に君臨するだけに、海外の強豪たちから標的にされ、得意の中段突きも研究され始めている。そこで今年から蹴り技主体のテコンドーの道場に月1回通って、苦手の蹴りを磨いてきた。その成果が勝負どころで発揮された。それだけではない。技のバリエーションや相手の出方に応じた対応力も引き上げた。ボクシングや柔道の試合を生観戦するなど、自ら刺激を与え続けることで心の鍛錬も怠らなかった。

 今年の敗戦は1月のプレミアリーグ(パリ)準決勝で喫した1敗だけ。17年をドラマチックに締めくくった植草は「今年は変化の年でした。来年は改革の年にしたいと思います」。言葉の端々に空手界を背負って立つ覚悟がうかがえる。東京五輪での金メダル獲得へ、その進化は止まらない。【小堀泰男】