和歌山工が14-22で郡山北工(福島)に惜敗し、亡き恩師に弔い星をささげることはできなかった。監督を務めていた浜口博行さんが9月に43歳で死去。遺影に見守られ、左肩に喪章をつけて奮闘したが、後半に逆転を許した。36度目の出場で初のノーシードとなった常翔学園(大阪第3)は61-15で仙台育英(宮城)に快勝。大会通算80勝目を挙げた大分舞鶴など11校が30日の2回戦に進出した。

 和歌山工フィフティーンは、天国の浜口前監督へ白星を届けられなかった。1点を追う後半26分。逆転を信じて敵陣へ攻め込みながら痛恨のパスミス。ハーフウエーライン近くで拾われ、ダメ押しとなるトライを許してしまった。ロック松田主将はあふれる涙を抑えられない。「浜口先生に勝って報告したかった。でも、全力は出せたから、褒めてくれると思う」。2大会ぶり勝利を飾れなかったことを悔やみつつ、少しだけ胸を張った。

 恩師の教えを胸に戦い抜いた。「1分1秒を無駄にするな。大切に生きろ」。「試合を楽しめ」。母校の監督に就任した翌13年に発覚した胃がんと闘いながら浜口さんは「命を削って教えるから」と気丈に指導してくれた。だが、県予選前の9月21日に43歳の若さで死去。訃報に接し涙に暮れる部員に、同校OBで、コーチ時代の浜口さんに指導を受けた岡本監督は訴えた。「自分たちはラグビーをするしかない。浜口先生はラグビーをして輝いている姿を見てくれるはず」。必死に前を向き、練習に打ち込んだ。ベンチに飾られた浜口さんの遺影に見守られ、3大会連続23度目の花園切符をつかんだ。

 この日もベンチには浜口さんがいた。その前で14-10で前半を折り返したが、あと1歩及ばなかった。だが、恩師の教えは全うした。「試合は楽しめた。負けてしまったけれど、全力で戦ったことを報告したい」と松田主将。岡本監督も「次に向けて1分1秒を無駄にしないで取り組みたい」と和歌山県勢初の3回戦進出を目指す。亡き恩師の教えは、チームに生き続ける。【中島万季】