「マイ・ゾーン」が勝負を決めた。リオデジャネイロ五輪男子100キロ超級銀メダルの原沢久喜(25=日本中央競馬会)が決勝で、3連覇を狙った王子谷剛志(25=旭化成)を下し、3年ぶり2度目の優勝を果たした。

 互いに指導1で迎えた延長3分過ぎ。原沢の目つきが変わった。それまで息が上がっていたが、“超回復”したかのように王子谷を一気に追い込んだ。大外刈りをかわして、力で押しつぶした。9分16秒の激闘に終止符を打った。

 「ゾーンに入った。きついのを乗り越えてギアが一段上がった。単調な柔道だったけど、最後は気持ちと執念で勝ちきった」

 まるで、人気漫画「ドラゴンボール」のスーパーサイヤ人に進化したような超人的なパワーを披露した。

 スタミナ勝負に自信があった。母校の日大では、試合終盤の1分間を想定した乱取り稽古で倒れ込むまで鍛錬を積んだ。残り1分を「マイ・ゾーン」と呼び、終盤に追い込んでギアを上げる準備をしてきた。

 所属の賀持監督も「相手がバテた時があいつの一番力が出せるところ」と言う。

 リオ五輪(オリンピック)以降は、低迷が続いた。昨年の世界選手権は初戦敗退。その後は心身が慢性疲労に陥る「オーバートレーニング症候群」を発症した。

 今年1月に本格的に稽古を再開し、徐々に気力と体力を回復させた。今月末には20年東京五輪に向けて競技に集中するため所属する日本中央競馬会を退職する。今後は自身を追い込み、フリーでの活動をしながらスポンサーを探す。

 入社1年目で同大会を制し、現所属最後の今大会では有終の美を飾った。

 「優勝という結果で恩返しできて良かった。残り2年は柔道に人生の全てをささげる」

 大会後の強化委員会では世界選手権(9月、アゼルバイジャン)代表に選出された。2年後の本番に向けて「進化」を止めない。【峯岸佑樹】