吉田沙保里さんが20年東京オリンピック(五輪)を目指して復帰した盟友にエールを送った。2年半のブランクを経て昨年12月に本格的にマットに戻った伊調馨(34)を「本当にすごい」と絶賛。04年アテネ五輪から一緒に戦い、日本女子スポーツ界を引っ張ってきた「国民栄誉賞コンビ」が別々の道を歩み出した。

伊調がマットで奮闘する姿を見ながら、気持ちは引退へと傾いた。「カオリンはすばらしいと思うけれど、自分は自分、人は人。心は動きませんでした」。至学館大の2年後輩、ALSOK所属選手としてともに世界と戦った盟友と、違う道を歩む決心を固めた。

リオ五輪出場後、伊調とともに休養に入った。強化本部が「吉田と伊調は2年間、世界選手権に出場させない」と若手育成にシフトしたこともあり、もともと好きなテレビの世界に没頭した。厳しい練習には戻れないという思いもあってなのか「東京を目指すと馨の口から聞いた時、すごいなと思った」と話した。

性格は正反対、レスリングに対する考え方も違う。昨年のパワハラ騒動が対立をあおったが、2人には強い信頼関係がある。伊調は引退会見を受け「ずっとお世話になりっぱなし」と感謝し「明るさや優しさに、いつも元気づけられてきました」とコメントした。

4連覇を目指す過程で、伊調は「私が嫌いなテレビやCMの依頼も、沙保里さんが『私がやろうか』と受けてくれた。沙保里さんがいたから、今の私はある」と話した。吉田さんも「カオリンがいたから、強くなれた」と話していた。ともに世界と戦った仲間。だからこそ、分かり合える。

伊調はこの日も都内で練習に励んだ。吉田さんはマットから離れ、選手たちの盛り上げ役に回る。「第2の人生も楽しんでください」。伊調のコメントには先輩への感謝とねぎらい、そして別々の道を歩くという決意が込められていた。【荻島弘一】