4年ぶり出場の羽生結弦(25=ANA)が男子SPで110・72点をたたき出した。最後のジャンプを4回転-3回転の連続からトリプルアクセル(3回転半)に入れ替える構成変更が奏功。出来栄え点(GOE)を稼ぎ、国際スケート連盟(ISU)非公認ながら、自身が持つSPの世界歴代最高得点110・53を上回った。来年3月の世界選手権(カナダ・モントリオール)代表選考を兼ねる中、22日のフリーでは15年以来5度目の優勝を狙う。

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羽生が重圧を吹き飛ばした。4年ぶり、かつ東京会場は9度目の出場で初の全日本。同じ第4グループの1番手で宇野が105点を超える会心の演技をした。直後、余韻が残る会場で美しく上をいった。まず4回転サルコーを降りると、前戦グランプリ(GP)ファイナル(イタリア・トリノ)で単発に終わった4回転-3回転の連続トーループで着氷。3回転半も踏みとどまった。

表情は最後まで崩さない。小さくうなずくと、スタンディングオベーションで祝福された。「おおむね満足しています」。得点は110・72点。ISU非公認ながら、18年11月のロシア杯で記録した110・53点を超越した。

11月下旬のNHK杯、今月上旬のGPファイナルと5週で3戦の過密日程は4年ぶり。「秋によせて」2季9戦目にして初めて、最後のジャンプを連続から3回転半に入れ替えた。常に「ノーミス以外は敗北」の観念に駆られる中、負担軽減が目的と思われたが「出来栄え点を稼ぎたくて」と前向きな挑戦だったことを明かした。基礎点は32・77点から32・2点となり「0・57点は下がるけど、新たな挑戦がしたかった。稼ぐ、という言い方は隙ではないけど、プログラム自体の出来栄えを良くしたくて。自分で1週間前に変えたんです」。曲と表情の音を合わせるため、つま先を軽く。静かに降りるための試みだったことも補足した。

16年はインフルエンザ、17年と18年は右足首の負傷で欠場した全日本。今回は連戦の蓄積疲労と闘った。2日前に拠点のカナダ・トロントから帰国したばかりで、前日の曲かけ練習ではジャンプ5本→成功ゼロだった。GPファイナルで米国のチェンに敗れたことにも触れ「割とへこんでて。心身の消耗が激しくて調整どころではなかった。前日は見ての通り」。だが、そこで預かっていたファンからのメッセージを読んで立ち直れた。「クリケット(連取施設)で、トロントで。ほんと1人のスケートじゃないな、と思わされた。それで力をもらい、心をつないでこられました」と凱旋(がいせん)試合で修正し、盤石演技でお返しした。

意外にも、全日本9度目の出場で初の東京会場。来夏五輪のために改装されたばかりの環境で、参考記録ながらSP自己最高点の滑りを見せた。22日フリーへ「4回転アクセルはしないと思います」。笑顔の冗談に好調さをにじませ「まずはホッとしたい。フリーのことは考えてません。明日の状態を見て調整を考えたい」と4年ぶり5度目Vへ自然体を貫いた。【木下淳】

◆羽生の全日本選手権 5度目の出場となった12年で初優勝。15年には男子史上5人目となる4連覇を達成した。しかし、5連覇が懸かった16年は、拠点のカナダ・トロントから帰国した後にインフルエンザを発症して大会前に急きょ欠場。17年は11月NHK杯の公式練習中に4回転ルッツを転倒した際、右足首を負傷。18年も11月のGPロシア杯で再び右足首を負傷して3年連続で欠場した。

◆フィギュアの採点方式 04年6月の国際スケート連盟(ISU)総会で当時の6点満点が廃止され、04-05年シーズンから現在の上限のない加点方式への変更が決まった。各種ジャンプやスピンなどの要素ごとに難度に応じた基礎点を決めておき、それぞれの出来によって点数を加減。演技全体についても項目に分けて得点化し、合計で順位を決める。