男子グレコローマンスタイル67キロ級の太田忍(25=ALSOK)の東京オリンピック(五輪)が消滅した。リオデジャネイロ五輪の59キロ級銀メダリストは、階級を上げて臨んだ初戦で井ノ口崇之(23)に0-8のテクニカルフォール負けを喫した。東京五輪出場には今大会で優勝し、3月のアジア予選で出場枠を獲得するしかなかった。

「『勝てるだろう』『大丈夫だろう』と心の中に隙があったからああいう結果になった。こんな試合をしては、東京五輪の『と』の字もない」。

第1ピリオド序盤に、展開を作るために投げのモーションに入ったところで、相手につぶされた。「投げるつもりの投げじゃなかった」動きが不用意だった。ブリッジでフォール負けこそ逃れたが0-4の劣勢に。第2ピリオドも好機を見いだせず、カウンター狙いの相手の一本背負いを食らい0-8となり、「競技やって20年で初めてじゃないか」という1回戦負けした。

60キロ級が主戦場。後輩の文田健一郎(24)の台頭で、激しいライバル関係を繰り広げたこの3年間だった。最終的には9月の世界選手権で文田が優勝して東京五輪代表に決まり、太田は67キロ級に転級する道に進むしかなかった。「もうやるしかなかったし、迷いはなかった」。未練も断ちきり、この3カ月は増量して体作りに励んできた。ロシア遠征では世界の強豪と練習試合も行い、手応えを得ての大会だった。「階級の差は感じなかった。先を見過ぎた結果。情けない。それだけです」と正面から負けを受け止めた。

文田からは世界選手権後に「一緒に金メダルを取りたい」と声をかけられていた。「すごくうれしくて、達成したかった…」と言うと、涙を流した。突然の幕切れに心の整理は付かない。「何から考えていいのか、自分に関しては分からない状態です」と今後については明言しなかった。

「こんな終わり方するんだな」。試合終了のブザーを聞くと、そう心の中でつぶやいた。こんな早期に、こんな形で戦いが終わるなど、本人も周囲も予想していなかった。