SP首位発進の羽生結弦(25=ANA)は、4年ぶり5度目の優勝はならなかった。SP2位の宇野昌磨(トヨタ自動車)が、逆転で4連覇を果たした。

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宇野が、4連覇を達成した。それ以上に初めて羽生を上回った。「ベストの演技じゃなかったけど、どんな形であれ、スケート人生の大きな目標だった。結果はうれしい。ユヅ君(羽生)が出てない全日本で3度優勝しても、正直、日本の誰も気づいてない。僕も日本の誰もが一番うまいのはユヅ君だという思いがある。大きな特別な存在。五輪よりも僕は1度でいいからユヅ君に勝ちたいと思っていた」と素直に口にした。

耐えに耐えた。冒頭からのジャンプ3本で着氷が乱れたが、踏ん張って耐えた。演技後半の3連続ジャンプは体力が尽きた。最後のジャンプは狙って1回転フリップ。「シニアの選手で1回転フリップを狙って跳ぶ人はいないな」。こみ上げる笑いを抑えて、演じきった。「全部こらえて崩れなかったのが優勝の要因」。18年平昌五輪銀メダルの呪縛があった。高まる周囲の期待。「僕は五輪を特別視していなかったが、想像以上のもの(期待)になった。ユヅ君みたいに強くなりたいと思った。でも結果が出せなくなって、ユヅ君のすごさが感じられた」

昨季を終えて、ふと気づいた。「楽しいと思えることが少ない。もともと小さいころ、高橋(大輔)さんに憧れた。どこかといえば、表現。曲に合わせて踊っている時に心地いい」。「勝負」にとらわれ、滑る喜びを感じられなくなった。

今季はメインの指導者不在でもがいた。11月のフランス杯はシニア転向後ワーストの8位に泣いた。「どん底を経験していつもと違う気持ちになれた」。直後のスイス合宿でランビエル・コーチの教えを受け、少しずつ喜びを思い出した。

五輪の呪縛から解き放たれ、再生の第1歩となるV4。「ユヅ君みたいに自分に厳しく強くあることはできないが、スケートを楽しみたい。アスリートの自覚がないと言われるかもしれないが、そうやっていきたい」と吹っ切れたような笑顔で言った。【益田一弘】