新型コロナウイルスの感染が広がる中、各国のスポーツ界はどうなっているのか? 今月には新たな感染者が「0」になるなど、封じ込めの成功例として評価される台湾は、12日にはプロ野球の公式戦が無観客で開幕している。体操の総監督を務める浜田貞雄氏(73)は対策の的確さ、迅速さの差が、選手強化にも大きな影響を及ぼすと指摘した。

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浜田氏は今も、台湾の高雄市のナショナルトレーニングセンター(NTC)「国家運動訓練中心」で選手の強化を続けている。五輪競技を中心に200人ほどが集う強化拠点は、1年延期された東京五輪へ稼働中だ。

「先週、近くの海軍施設の軍艦でクラスターが発生し、センターからの外出には制限がありますが、今日も選手は練習してます」

共同利用する食堂は入る列は2メートル間隔、料理を取る際にはビニール手袋着用、4人掛けの机は2人利用などの対策ができ、練習でも整列は間隔を開けるなどもしている。それでも、日本のNTCが5月まで使用停止となり、選手強化が停滞しているのとは対照的だ。

「とにかく対策がスピーディー。『最初はなんでそんなことやるんだろう』って思いましたが」。

1月下旬、センターに入るのは検温、手洗いが必須になった。1月22日に台湾で最初の感染者が確認されたばかり。政府は2月2日の時点で学校の一斉休校も決め、同月にはマスクの配給システムなどの確立にも乗り出した。

「大きな混乱はなかったですね。台湾は島国だけに、感染が広まれば大変なことになる。政権の必死の封じ込めを感じました」

浜田氏は2月下旬に日本に戻り、そこから米国へ。3月12日にハワイから台湾に戻り、その際には隔離措置を受けた。

「(2月)28日に日本にいたのでそれが対象に。期間は通常は14日ですが、センターを使用するには16日の隔離を求められました」

先日も携帯電話に保健局の職員から電話があり、体温、感染症状の有無の質問があった。全ての国からの入国者に対し、入国後のフォローも徹底されている。

人口約2360万人に対し、感染者数が500人以下(22日時点で405人、死者6人)に抑えられ、スポーツも活動できる状況。指摘するのは、感染対策の内容による来年の五輪への影響だ。

「台湾のように政府が中途半端にせず、素早い判断を下した国と、日本のように内閣支持率を優先し、経済対策や五輪開催を重要視してか、政治的判断を優先させた国では、選手強化でも大きな差が生まれるでしょう。台湾のNTCは一番安心のできる場所と言える。そこで練習できているのですから」

世界的には終息の見通しが立たない中、環境に大きな差は出始めている。【阿部健吾】

◆台湾のスポーツ開催状況 プロ野球が海外のリーグに先駆けて公式戦を4月15日に無観客でスタートさせた(予定していた11日、12日は雨天中止)。本来の開幕日から約1カ月遅れたものの、例年通り各チームが前後期計120試合を消化する方針だ。インターネットによるライブ中継では、視聴者が100万人を超える日もある。また、サッカーの「プレミアリーグ」もプロ野球と足並みをそろえて12日に無観客で開幕。8チームが3回戦総当たりのリーグ戦を行う。ウオーミングアップや試合以外ではマスクの着用が義務づけられており、相手選手などとの握手は禁止されている。どの競技も会場での検温、消毒を徹底している。

◆台湾の感染対策 昨年12月には検疫強化の方針を打ち出し、1月下旬に中国人の入国制限、2月上旬には全面禁止(日本は3月9日)。1月30日には蔡英文総統が「必要な供給を確保する。慌てないで」とマスクの流通管理、生産拡大を表明した。配給システムを是正しながら、いまではアプリで予約し、コンビニで受け取ることもできる。開発にはIT担当の閣僚で天才的プログラマーとされる唐鳳氏が大きく貢献した。また、日本の厚労省にあたる衛生福利部の陳時中部長は、米国のジョンズ・ホプキンズ大学で公衆衛生に関するテーマで博士号を取得した専門家で、迅速かつ適切に国民に消毒や手洗いなどの注意喚起を促せた。

◆浜田貞雄(はまだ・さだお) 1946年(昭21)11月6日、高知県生まれ。69年に日体大を卒業後に渡米。ケント大で修士号取得後に72年からスタンフォード大学で指導。無名校を92年には大学制覇まで育て、96年アトランタ五輪では米国人の愛弟子が平行棒で銀。12年ロンドン五輪ではオランダ代表を率いて鉄棒で金。16年からは台湾で総監督となり、昨年の世界選手権で64年東京大会以来となる東京五輪に導いた。「スタンフォード大学で生まれた世界NO・1の成功法則」の著書がある。