16年9月8日。日刊スポーツは「愛 台湾卓球王子と入籍してた」と、卓球界の国民的アイドル福原愛(31)の結婚スクープを1面で報じた。

同21日には夫婦そろって、東京都内のホテルで結婚会見を行うことになった。当日の詳細をマネジメント会社に問い合わせると、「日刊さんは取材をご遠慮いただきたい」との回答が…。いわゆる“出禁”を突き付けられた。発表前の先んじた報道を抑制するための対抗手段であり、他メディアへの警告でもある。

新聞に出る前日の7日、愛ちゃんに伝えておこうとテレビ収録中の現場を訪れていたが、会うことは出来なかった。そのため担当者を通じてこちらの意向を伝えてもらっていた。ただ、先方の怒りは想定外だった。

結婚会見の当日、是が非でも前言撤回してもらおうと気持ちは高ぶっていた。内に秘めた闘争心からスーツの下に迷彩柄の勝負下着を履いた先輩記者、カメラマンとともに会場へ。受付でも再度入室を断られたため、マネジメント会社の責任者に理由を問うと「愛が怒っているので」。数十分間の押し問答の末、取材は認められた。だが「愛が-」の言葉が私の心に突き刺さっていた。どんな時でも神対応の愛ちゃんを、まさか怒らせてしまったなんて…。

羽田空港での取材中、夫の江宏傑を連想させる「タイワンモミジ」の植木を見つけると、愛ちゃんは「ちょっと移動しましょうか…」と自虐ネタで笑わせたこともある。遠征先で購入したみかんを土産にもらった私が「みかんの花言葉は『花嫁の喜び』『純愛』」と記事にしても、後日に「見ましたよ~。もう絶対に許さない」と笑い飛ばしてくれたこともあった。結婚報道に関しては、何を思ったのか。その真意を直接確認したく対面できるチャンスを待った。

10月7日、リオデジャネイロ五輪メダリストらによる銀座パレード。1対1で対話出来るのは、この日だと思った。約80万人の大観衆が集った現場ではなく、私はアスリートの待機所だった都内のホテルにいた。携帯電話のワンセグで様子は確認したが、頭の中は「何と、話しかけたら良いだろうか」。そればかり考えていた。ロビーや出入り口を行きかう人の流れの中から見逃してはいけないと凝視し続けた。「来たっ」。思わず声も出た。バスに乗り込む前の愛ちゃんを見つけ、小走りで迫った。

「愛ちゃん!」。いきなりの呼び止めに少し驚きの表情を見せたが、私は続けた。

「結婚…。発表前に書いちゃったけれど…。愛ちゃんが怒ってるって聞いたので、話がしたくて待っていました」

すると、強い日差しに少しだけ目を細めながら「新聞の1面で結婚って書いてもらえる人なんて、ほとんどいない。光栄なことじゃないですか。逆に、ありがとうございます、ですよ」と笑顔が返ってきた。

いつも通りの神対応が、その日の天気同様に私の心も晴れやかなものへと変えてくれた。バスを見送りながら、思わず手を合わせて拝んでしまった。後日、報道前日に会った担当者とも話をした。「愛が怒っている」の言葉は、会場で対応した責任者の主観が入っていたようだった。

現在は男女2児の母として日本と台湾を行き来しながら、Tリーグ理事も務めるなど活躍は続いている。以前に「子どもが出来ても私が卓球選手だったことは内緒にしておく。いつか大きくなった時に温泉卓球とかでスマッシュを決めて驚かせたい」と話していたこともある。愛ちゃんのツイッターのアイコンには、浴衣姿で卓球を楽しむ写真が使われている。

神技と神対応を受け継ぐ「愛ちゃんジュニア 五輪金メダル」を、1面で報じる日を心待ちにしている。【鎌田直秀】