日本フェンシング協会が25日、9月に開催することを決めた20年度の全日本選手権(17~19日=予選、26日=決勝)に関する概要発表記者会見をオンラインで行った。

新型コロナウイルス感染症の状況を見て無観客で行い、決勝はインターネット配信する。男子フルーレで08年北京(個人)12年ロンドン(団体)と五輪2大会連続の銀メダリスト、太田雄貴会長(34)が「新しい大会を創造していきたい。時代に先駆けた、コロナ禍における大会を開催する」と宣言。NTT西日本とタッグを組み、集客に頼らない観戦体験という新時代の形を視聴無料のABEMA(決勝)でネット配信する。

「諦めない心も、挑戦する勇気も、すべてスポーツが教えてくれた」を大会ステートメントに。「NEW STANDARD」をテーマに。新しい価値、新しい体験、新しい感動をつくる-。そのために「なくしたものを嘆いたり、元に戻すことに執着するばかりではなく。私たちは、何かを発明することもできるはずだ」と大会の声明文に盛り込んだ。

昨年までチケット単価プレムアム化を推進。17年は1000円だった入場券を昨年は最高3万円にする一方、バックヤードツアーなど付加価値をつけて観客動員数入場料収入も右肩上がりだった。今年は無観客で新しい形の配信に挑戦するため、なくなってしまう。その分を補うべく、クラウドファンディング制度やギフティングサービスを導入予定。目標金額は「500万円」とし「運営費の一部に充当できれば。ぜひ皆さんのご協力を仰ぎたい」と呼びかけた。選手への賞金についても「理事会を通さないと怒られちゃうので、あくまで個人的な考えですが」と笑顔で前置きした上で「少額でも出して選手に還元することができれば。それがプロ」と現場への思いを語った。

全日本選手権は18年に東京グローブ座、19年にはLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で行われ、従来と全く異なる見せ方で話題になった。今年は新型コロナ禍に見舞われたが、逆境をポジティブにとらえ、最新のICT(情報通信技術)であるNTT西日本グループのリモートツール「ELGANA」を活用した配信を行う。

「新しい技術を駆使することで、生観戦で得られる感動とは異なった形の、新しい感動を提供できれば。バーチャル背景、目の錯覚を利用した映像制作など、新しい配信の形も模索していきたい」。リモート観戦を盛り上げる仕組み、選手の動きや剣先に赤や緑の色がついて可視化されるビジュアライズドなど、新時代の観戦スタイルを届ける。

感染症対策については「エキスパートとパートナー契約を結ぶ予定。検温、もし陽性反応が出た場合のアフターケアまでできるように」と万全を期し、選手、審判、コーチ、スタッフの参加も最少とする。各ブロック予選、推薦による各種目77人が出場してきた通常開催は難しいと判断し、今年4月1日現在の各種目シニアランキング(男女)上位32位までを出場選手として推薦する。予選は9月17日から3日間、東京・駒沢体育館で行われ、26日に決勝が行われる(スタジオなど都内の屋内施設)。

東京五輪種目で日本一を争う大会の再開は、スポーツクライミングのリードが8月9~11日に岩手県盛岡市で行うジャパンカップが最速。全種目ではフェンシングが、現時点で開催を決めている大会の中で最速となっている。太田会長は「フェンシングが第1歩を踏み出したい」。国際フェンシング連盟(FIE)の副会長としても「この大会の成功事例をひっさげて世界で発表したい」と、前向きな言葉の数々を理路整然と並べた。【木下淳】