アスリートを題材に世界的な注目を集めるアーティストがいる。田村大さん(36)。似顔絵世界一の実績を持ち、NBA公式イラストレーターに。現在はバスケットボール以外の競技に対象を広げ、プロ野球の巨人、ソフトバンクとのコラボでも話題だ。作風は躍動感に満ち、スポーツの一瞬を見事に切り取る。コロナ禍で問われる「スポーツの力」、SNS時代の発信、貫く信念を聞いた。
日刊スポーツ公式YouTubeではインタビュー、製作などの様子を収めた動画を公開しています。
「日本に『スーパーヒーロー』っていないんじゃないかなって」。
その仮説が始まりだった。似顔絵の国際大会で世界一に上り詰め、所属していたイラスト製作会社を辞し、アーティストで生きていこうと決めた3年前。「僕等が大人になってヒーローとして見ている対象は何なんだろう…」と思案した。漫画文化の日本では、例えば主人公の多くは子ども。一方でアメリカンコミックは、成熟した大人が主役。スーパーマンや、バットマンなど、体を鍛えて、強くある。「米国人はその姿を見て、家族を大切にしたり、体を鍛えて格好良くいようと思っているのでは? 日本では同様の存在は誰なんだろう?」
田村さんの頭に1つのフレーズが浮かんだ。「ヒーローインタビュー」。スポーツの試合で活躍した者に許される「ヒーロー」という呼称。「彼らがまるでスーパーパワーを手にして、みんなの前で跳んだり跳ねたりしているようで、でも何も使っていない生身の体で、そこにみんな夢を託して自分を重ねて応援している。それでみんなの夢をかなえているのがアスリートだなと思ったんです」。その直感が道を作った。
似顔絵を描いていた時は、カリカチュア=誇張こそが武器だった。アスリートを描くと決め、スタイルを一変させた。「格好良く、より躍動感を持った、写真では出せない絵を描いて、違いを出そうと。写真は背景があったり、いろんな情報がたくさん詰まっているので、どこに目をいかせるか、一発では表現しにくい。僕は描きたいものだけを描いて、余計なものは描かないんです」。
スポーツに特化したイラスト文化は、まだ日本では皆無に近かった。海外でもまれだった。「僕のスタイルは日本人が見るとアメコミみたいに見えるし、アメリカ人が見ると日本の漫画に見える。その間がオリジナリティーなんです」。
◇ ◇ ◇
-スポーツのイラストで生きると決めた後、インスタグラムで作品を発表されましたね?
「日本ではやる前で、『インスタ映え』という言葉がなかったですね。写真の中にイラストがあったら目立つし、僕はこれを作品集としても使いたいと思ったので。その時に似顔絵の世界的な方のフォロワーが2万しかおらず、自分が24歳まで続けたバスケットボールだと、NBAの公式が3000万人くらいいて。バスケ好きをターゲットにしたほうが、フォロワーを稼げるんじゃないかと」
-そこからNBAの公式イラストレーターになります。
「前例がなく、契約したい時にルートが分からなかった。なので、NBA選手に直にタグをつけて本人にシェアしてもらえば一気に広がると思い、有名な選手をピンポイントで描いていきました。さらに、日本でNBAと公式につながりがあるのは楽天で、ちょうど代表の三木谷さんが誕生日が近いと分かり、勝手にNBAコミッショナーと2人の絵にしてタグ付けしたら、ご本人がフォローしてくれて。その時にすかさずダイレクトメールで、僕の夢とこういう活動をしているというのを伝えたら、社内のNBAの部署につなげてくれて、仕事が始まりました。それはその後の活動も全部共通してて、一番大きなところから目指すことにしています」。
◇ ◇ ◇
NBAをきっかけにインスタのフォロワーは爆発的に伸びた。いまは10万人以上で、米国人が約4割を占め、世界的に人気の地位を築く。作品が多くの人に届いた理由を聞くと、「印象的な話があって…」と例に挙げたのは、ある世界的なベストセラーの絵本が、実は母親が自分の息子に向けて書いたものだったという事実。「ターゲットが明確なほど、より多くの人の共感を生む。ファンの方が喜ぶのは、本人が喜んでいる絵でしかないと思う。変に自分のフィルターを通して変えすぎず、そのモデルが以下に格好良くなるかだけを考えて、本人にどうやったら喜んでもらえるかだけを考えています」。
そのための瞬間を切り取る。「そのスポーツの中でよりエネルギーを発しているシーンを選ぶようにしています。一番力があふれ出る時を描きたい。勝負どころは一番エネルギーを込めているはずなので。それがもっと見ている人に伝わるように描きたい」。夢中になった「ドラゴンボール」などの少年漫画を思い返しながら、「まさに必殺技、ですよね」と形容する。そう、ヒーローの持てる技-。
◇ ◇ ◇
-これまで何枚くらいの絵を描いてきましたか?
「似顔絵を描いていた時は、1日で66人ですね、最大。朝から晩まで10時間以上書き続ける。もうヘロヘロです。世界大会も3日半の大会で、睡眠時間は3時間。あと70時間以上書きました。そういった鍛錬が生きているのはありますね。量が質を作るというか、スポーツ的なんですが。いままで3万人弱を描いて経験したかなと思ってます」。
-1枚の絵を描く時間は?
「対象が1人なら1、2時間です。早く描くのは意識してます。早いほど発信もできるし、いろんな企画に関われるし、早いから雑ではなく、実は早いのも技術で、鍛錬したからこそ次々に書ける。やみくもに描くことはしたくなく、毎回自己ベスト更新を考えてます」。
-1年ほど前から、バスケ以外にも対象を広げてますね?
「インスタをフォローしてくれた武井壮さんと食事をさせていただく機会がありました。そこで、『いま、絵をもし百万で買うといったらどう?』と聞かれて。初めて桁違いの金額を提示されて、それに見合った価値を提供できないと。そんな場面に立たされ、このままではダメだと。イラストは誰かの世界観に合わせた絵なんですけど、アートは自分の世界に引き込むような絵。もっと自分の世界を作って、そこに引き込んでいくような活動もしていかないとと思い、動物や歌舞伎なども描いてます」。
スポーツでもボクシング、柔道、プロレス、相撲など多岐に及んでますね?
「意図的に広げてきました。いつか米国の4大スポーツを制覇したいんです。作品をいろんな人に知ってもらいたいんですけど、僕自身の価値をつけることで、僕が描いたものならなんでもすごいものなんだと思ってもらうことが、目指すところ。いかに自分自身を評価してもらうか、それを毎日考えてますね」。
◇ ◇ ◇
コロナ禍で、アスリートの躍動する姿を間近でみる機会は、著しく少ない。だからこそ、描かれた絵の与えるスポーツの強さ、速さ、美しさが印象を濃くするのかもしれない。口にする言葉は、アスリートへの敬意、そのすごみを伝えるため確固たる意志に満ちる。3年前に転身を決めた時、立てた目標に対し、いまは「10%くらいかも」と言う。フォロワーも収入も知名度も、まだまだ満足できない。
最後に聞いた。絵を描き続ける先に求める究極の理想は何か。
「スポーツが好きな子がいて、僕にたまたまSNSで出会い、絵でスポーツに関わっても良いと思ってもらえたら最高ですね。自分がそんな『スーパーヒーロー』の1人になりたいというのが、絵描きとしての最終目標ですね」。







