ドラマのような幕切れだった。13-14。関学大が1点を追う第4クオーター(Q)残り3秒。ゴールポストまで21ヤード。キッカー永田が右足を振り抜いた。高く上がったボールがゴールをすり抜けた瞬間、時計の針は残り時間「0」をさした。歓喜と、悲鳴が響くスタジアム。永田は「外すイメージはなかった。いつも通り決めることができました」と最高の笑顔を見せた。

崖っぷちだった。終了まで残り1分36秒。自陣32ヤード地点からQB奥野耕世(4年)がQBサックを狙われ2回連続でボールを投げ捨てた。だが、続くサードダウンでWR鈴木海斗(4年)に33ヤードのパスを成功。さらにパスで攻め、敵陣深くまで前進。劇的逆転への道筋は巧みなパスで描いた。

劣勢でどう逆転するか、戦略を練っていた。新型コロナウイルスの影響で6月の練習再開後は20人と制限されたが、攻撃陣のミーティングに費やした。その積み重ねが奥野の「ゆっくり攻めようと思った」という精神状態を作り出した。

18年の西日本代表決定戦も、同じ立命大に奥野のパスから前進し、残り2秒でFGを決めて逆転した。今回は残り3秒。2年前と同じドラマを再現し、RB鶴留主将は「1点差という状況を意識して、練習からやってきた」と胸を張った。

甲子園ボウルは日大-桜美林大の勝者と対戦する。日大なら、悪質タックル問題が起きた18年5月6日の定期戦以来初めて相まみえる。当事者だった奥野は「最高の舞台でできるのはうれしい。いろいろあったんで。本気でぶつかって勝ちたい」と闘志を燃やす。

昨季限りで鳥内監督が勇退しても強さは不変だ。逆転劇は奇跡ではない。経験に裏付けされた強さがある。新体制でも伝統は受け継がれている。【南谷竜則】