92年バルセロナ五輪柔道男子71キロ級金メダルの古賀稔彦さんは、柔道界随一の達筆で知られていた。「文字は人を表す」ではないが、柔道と同じような躍動感ある文字が、多くのファンから大人気だった。

24日午前に亡くなった古賀さんの“最期の作品”は、滋賀県東近江市にある。今年1月、国の登録有形文化財で柔道場として利用されている「湖東錬成館」の表札板を古賀さんの書で新調した。

表札板は長さ約1メートルのけやき板。劣化のため文字が読めなくなっていた。04年に市内で古賀さんに講演してもらった縁で、湖東錬成館関係者が子どもたちに「夢や希望を与える表札にしよう」と考え、打診した。昨年11月に古賀さんから「湖東錬成館」の文字を記した15点の候補を書き上げてもらった。力強い文字で、字体、細字、太字などさまざまだった。その後、保護者らで表札にする1点を選び、元の看板を利用して文字を転写して仕上げた。

表札板は柔道場の入り口の柱にかけ、書とともにプレゼントされた古賀さんの全身パネルと並べた。湖東錬成館の垣谷康隆さん(56)は「まさか、こんなことになるとは…。今でも信じられません。古賀先生の文字から『頑張れよ』という強い思いが伝わり、この表札に負けないよう子供たちとともに精進します」と感慨を込めた。

道場で稽古する地元の小中学生たちは、コロナ禍の影響で古賀さんに直接お礼を言えなかったため、5月にも都内でお礼を伝える計画を立てていたという。その願いも実現せず、柔道界のスーパースターは53歳の若さで旅立ってしまった。【峯岸佑樹】