白血病から復帰した池江璃花子(20=ルネサンス)が、2種目目の東京五輪切符を獲得した。女子100メートル自由形決勝に臨んだ池江は、53秒89で優勝。400メートルリレー代表に内定した。男子200メートル個人メドレーでは、すでに代表を決めている瀬戸大也(26)に続いて萩野公介(26)が2位で代表に内定。元五輪平泳ぎ代表で中京大教授の高橋繁浩氏が大会6日目のレースを振り返った。

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池江の表情が、レースごとに変わっていく。最初の100メートルバタフライ決勝は入場する時に「ただいま」と口を動かしたが、この日は厳しい表情で右こぶしを握り締めた。「勝ちたい」という気持ちがあふれていた。大会を通じて、本来の「勝負根性」を思い出したのか。戦う選手、アスリートになっていった。

準決勝の泳ぎを見て、53秒5くらいまで出るかと思っていた。後半少し落としたのは仕方ないが、今の時点で53秒台は立派だ。バタフライでも同じだが、課題はスタート。筋力が増せば蹴る力も増し、体重が増えれば飛び込み直後の推進力も大きくなる。この2つが改善されれば、0・3秒は速くなる。前半が楽に入れれば、後半も伸びる。まだまだタイムは縮められる。

能力的には世界と戦えるレベルの選手。ただ、大病から復帰した直後で、無理はできない。東京五輪まではコンディショニングも重要。池江の性格から考えても「勝ちたい」「練習したい」となりそう。意欲を持つことはいいが、過剰になることは怖い。前日の準決勝で「前半は抑えて」という指示が出たように、今度は周囲が池江をセーブすることも必要になりそうだ。

メドレーリレーに続いて400メートルリレーの出場権も得た。バラフライ、自由形ともに個人種目に出る可能性もあるが、まずは負担が少なく世界との差も小さいリレー種目での活躍を期待したい。ここで経験と自信をつけて、次の24年パリ五輪で個人種目のメダルを狙う手もある。大病から復活し、これだけのタイムを出す天才。まだまだ可能性に限界は感じない。

 

男子200メートル個人メドレーでは、萩野が代表入りした。これは、日本にとって大きい。前回大会金メダルの経験があるし、瀬戸の刺激にもなる。すでに代表に内定している瀬戸は調整途上。萩野も本調子ではない。タイム的にはまだまだだが、2人の力を考えれば1、2フィニッシュも現実的な目標になる。

「ライバル」という言葉では足りない関係性が、2人にはある。子どもの頃から争った特別な関係。萩野がいたから瀬戸が、瀬戸がいたから萩野がいる。世界トップでも続く関係の長さは、水泳界でも珍しい。

レース前、瀬戸はバタフライから背泳ぎへのターンを繰り返していた。萩野が最も得意とするターンを、意識していたのだ。瀬戸は萩野が強い背泳ぎを磨き、萩野は瀬戸のバタフライや平泳ぎを強化してきた。互いの特徴を認め合い、弱点を補ってきたから、世界を制することができた。

ともに目指すのは五輪本番。この選考会で、手応えはつかんだはずだ。3カ月半、刺激し合ってトレーニングすれば、本来の1分55秒台は難しくない。長く個人メドレーを引っ張った米国コンビに代わって、2人が第2の「フェルプス、ロクテ」になる。(84年ロサンゼルス、88年ソウル五輪平泳ぎ代表)