羽生結弦(26=ANA)が、前人未到クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)の練習を国内で初披露した。着氷こそなかったが、エキシビション(18日)の練習で12本挑戦。公の場では19年12月のグランプリ(GP)ファイナル(トリノ)の公式練習以来、約1年4カ月ぶりとなった。。

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氷から発せられる音が、その衝撃を物語っていた。羽生の体が打ち付けられると、その度に「バタンッ」と響く音。挑戦を後押しし、体をいたわるように、毎度観客の温かい拍手に包まれた。羽生は本気だった。

午後1時25分に始まった45分間のエキシビション練習。3分後には長袖の上着を脱ぎ、ジャンプ2本目で4回転トーループからの3連続を決めた。エキシビション使用曲でのリハーサルを早々に終えると、スイッチオン。前向きで踏み切り、高く跳び上がるアクセル(1回転半)を確認すると、今度は4回転半の空中の動きを確かめるように、氷の上でクルクルと回った。

その場の緊張感は、徐々に高まっていった。2回転半を両足で着氷させると、いよいよ4回転半。両手を大きく振り上げ、高々と舞い上がり、反動を怖がることなく転倒した。3月、世界選手権が行われたストックホルムで自ら「(残り)8分の1、回れば立てる」と現状を説明しつつ「そこまでに酷使して痛み、ダメージが確実にたまっている」とも明かした。今年に入って1日平均にすれば45分間練習し、2時間やり続けた日もあったという。すでに1000回以上は挑戦したが、まだ着氷はできていない。

その大技に12回挑んだ。半分が転倒、半分は空中で回転が抜けた。右手で軌道を何度も確認し、左手を腰に当てて、考え事をするようにリンクの端を滑った。転倒時には声も出し、鋭い眼光で再び挑戦した。練習を終えるとロシアの26歳コリャダとグータッチを交わし、リンクを引き揚げた。

前日のフリーでは最終盤、最も得意とする3回転半で3・04点の加点を稼いだ。「4回転半に続く道を、ここで示す」と体力が削られている中で跳びきった。

「4回転半がそろった、完成された演技を目指して頑張っていきたい」

フリー後に誓った来季の大目標。この1日も成功への過程にある。【松本航】