YouTuber「さときんぐ」としても活動する村上仁紀(さとき、30=あおぞら病院)が初の決勝進出を遂げた。決勝で東京オリンピック(五輪)団体の金メダリスト加納虹輝(23=JAL)と対戦する。

準決勝は、大学の後輩でもある松本龍(日大)に15-14で勝利。14-14から、最後のポイントを取った方が白星をつかむ一本勝負を制して勝ち名乗りを会場に響かせた。同じく日大の3学年後輩で、金メダル獲得メンバーの山田優(27=自衛隊)は自身との対決を前に準々決勝で敗れたが、好機を逃さず11月6日の決勝(10月3日から変更、会場調整中)に駒を進めた。昨年の8強から躍進し「徐々に自分の持ち味である剣のやりとりができてきた」と汗を流しながら報道陣の取材に応じた。

所属先の病院は大分県国東市にあるが、普段は東京のナショナルトレーニングセンター(NTC)で山田や加納らと練習している。同時に「さときんぐのフェンシングch【現役日本代表によるフェンシングバラエティ】」という公式チャンネルを持ち、東京五輪で代表の同僚が金メダルを獲得した瞬間はライブ配信。涙を流して自分のことのように喜び、加納から「さときんぐさんが心から応援してくれた」と感謝された。その後輩との決勝へ「五輪で熱い試合をやっていた加納選手と戦いたかった」と胸を高鳴らせた。

異色の経歴も持つ。大学まではフルーレの専門で、団体の学生日本一になったこともある。ただ、五輪までは届かない微妙な立場。競技の第一線とは距離を置き、教員になっていた時期もある。だが、夢を諦め切れなかった。転機は17年の愛媛国体。大分県の代表として、フルーレではなく男子エペの団体に出場し、優勝した。そこで誘われた。後に金メダリストとなる主将の見延和靖(34=ネクサス)から「お前は、もう『エペジーーン(エペ陣)』だよ」と。

「見延さんと一緒に食事させていただいた時、誘いを受けて。正直、フルーレで成績を残せていなくて、やってみようかなと」。社会人なってからの転向という異例の決断だったが、約4年後、30歳にして初の決勝切符を見事つかんだ。

本場の欧米勢に体格で劣るため「日本人では勝てない」と言われ続けたエペで世界一になったように、この種目は何が起きるか分からない。東京五輪ではYouTubeのチャンネル登録者数が「300人くらい増えました。五輪ってすごいな、と実感しました(笑い)」と“金メダル特需”に便乗した村上が、一発勝負の決勝で主役の座を奪えるか。真の「さときんぐ」になるチャンス到来だ。【木下淳】